「緑の聖典」から「緑の観光」へ-----エコ・ツーリズムでイメージ・チェンジを図るリビア
(2007年9月14日掲載)

 2007年9月10日。紀元前7世紀にギリシャ帝国時代の巨大都市として栄え、ローマ帝国時代の1世紀にはネロ皇帝への医療用のシルフィウム(silphyium)の送付元として知られていたリビア東部のサイリーニ(Cyrene)のコロシアムで、民族衣装に身を固めたセーイフ・イスラーム・カダフィ/カダフィ基金総裁が、遠路はるばるやってきた取材陣、建築家、環境専門家など200名を前に壮大な計画をぶち上げた。「緑の山脈維持可能開発地帯」(The “Green Mountain Sustainable Development Area”)構想である。


 「緑の山脈維持可能開発地帯」は、ほぼ2ヶ月前から始められた国立公園、環境に優しいホテル、有機栽培農場、遺跡の修復等を包含した環境配慮型観光(エコ・ツーリズム)事業の総称である。首都トリポリと東部都市ベンガジの間の136マイル(約218km)の海岸線沿いに横たわる2046ヘクタールを、環境に配慮しつつ開発しギリシャ、ローマ帝国時代の遺跡を活かして外国からの観光客を呼び寄せる遠大な計画である。


 「我々の意図は、社会・文化・経済・環境が完璧に維持されるシステムの構築であり、現在の世代のニーズを満たしつつ将来の世代のニーズを充足させることである」「この地域では環境や温暖化ガスについて議論することのないことが、我々がこの事業を開始した理由である」「環境問題は欧州と北アフリカにとっての課題と見なされている」「今や先進国の隊列に加わり、我が国の環境・文化問題は文明化されたものであることを示す時である」「この事業はサイリーニ地域の環境を保全のうえ7万人の雇用を創出し、風力や太陽光といった再生可能エネルギーを開発して地元住民の生活水準を改善する」。カダフィ大佐の後継者としての地歩を着々と固めつつあるセーイフ/カダフィ基金総裁は、事前に用意した原稿を一気に読み進んだ。


 この壮大な開発事業の設計を受け持つのは英国のフォスター・アンド・アソシエーツで、遺跡の修復・保存を担当するのがUNESCOである。もっともフォスター・アンド・アソシエーツが「緑の山脈維持可能開発地帯」の設計契約に調印したのは、2007年7月11日に過ぎない。従って、一体どの程度の費用が最終的に必要となるのか、或いは事業の時間表はどうなっているのか等の詳細は全てこれからというのが実情である。フォスター・アンド・アソシエーツのスペンサー・ドゥ・グレイ設計部長も「事業全体の時間表やコスト構造について言及するのは時期尚早である」「この事業はまだ潜在性を示す段階にあるに過ぎず、依然きちっとした最終提案もなされていない」と正直に語っている。


 この点について、かつては英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)で中東研究に従事し、現在はケンブリッジ大学でリビア専門家となっているジョージ・ジョッフェ氏は「セーイフ/カダフィ基金総裁が本事業を発表したのはより大きな意図があってのことだ」「彼らはリビアが既にコーナー(角)を曲がり、現代社会に適合できることを示そうとしているのだ」「こうした大風呂敷はリビアでは良くあることであって、実際に実行されるか否かは分からない」と解説している。


 他方、リビアを挟んで西は湾岸のドバイ、バハレーンから地中海東部のエジプト、英国のロンドン等で幅広い事業を展開するリビアの民間人ビジネスマンでは4本の指に入るハッサン・タタナキ氏は、別の見方をしている。タタナキ氏は自身が「緑の山脈維持可能開発地帯」に資金を注ぎ込んでいることもあってか、「多くのことが高速度で動いている」「自分は今後2年で3棟のホテル建設に最大10億ドル(4.93億英ポンド、7.25億ユーロ)を投資することを計画している」と語り、既に事業の一部は進み始めている点を強調する。


 さらにセーイフ/カダフィ基金総裁の顧問で、ボストンで「維持可能な発展」に関するコンサルタントを開業しているジョー・スタニスロー氏は「緑の山脈維持可能開発地帯は、リビアの将来はリビアの過去と全く異なることを示すことで再登場したいとの考えと結びついている」「リビアは、産油国であっても、世界が直面する課題である地球温暖化をリードすることができることを示そうとしている」と、元々石油専門家であった立場を活かした一味異なる説明を行っている。。


 加えて、先に紹介したケンブリッジ大学のジョージ・ジョッフェ氏は「今や自己の立場を売り込もうとの競争が進行している最中である」「カダフィの子息達でさえ、自分達が如何に世界の一部になろうとしているかと言う革新的見解を示そうとしている」と述べ、「緑の山脈維持可能開発地帯」もその一つと推察している。


 「緑の山脈維持可能開発地帯」の資金面の顧問を務めるマフムード・ホサン氏は「この事業は、リビアが世界に自国を開放しても、スペインの海岸地帯のようにはならないとの考え方を示すものである」「我々は観光開発の大計画を持っており、豪華なホテルや別荘、ゴルフ・コース、共同体住宅を建てる。しかし、それらを開始する前に、我々は建築基準を確立しエコロジーを確保した遺跡開発が可能な体制を整備する」と環境第一主義で開発に望む考えを確認している。


 トリポリの世界野生動物基金(WWF)のアレッサンドラ・ポメ女史は「リビア沿岸部は手付かずのユニークで重要な地域であり、地中海で唯一残された場所である」「地中海の亀や鮪の最後の生息地である」「スペイン、イタリア、フランスのように、我々が注意を欠いてここを開発すれば、地中海沿岸はコンクリートの立ち並ぶスイミング・プールと化してしまう」「緑の山脈維持可能開発地帯については数日前に相談されたばかりだが、今後、より緊密な諮問をしてもらえれればと考える」と述べ、事業の推進に際して今後も相談して欲しいとの希望を表明している。


 尚、本事業に精通した消息筋の話によれば、「緑の山脈維持可能開発地帯」はまだビジョン段階に過ぎないものの、第一段階としては、本構想を運営・管理する国際評議員会を中核とする事業推進庁のような組織の創設ということになるようだ。

(9月13日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)