イランの中央銀行総裁人事
(2007年10月23日掲載)

 9月、アハマディネジャド大統領はイブラヒム・シャイバニ中央銀行総裁の辞表を受理し、後任にTahmasb Mazaheri(マザヘリ)氏を任命した。今回の辞任劇をみると、「ア」大統領が自分の考えに反対する閣僚は辞任という形ではあるが、実体は解任に追い込んでいる。この背景には、大統領自らの人気取り政策を進め、2008年3月の議会選挙に勝利し、2009年の大統領再選に向けて遮二無二突き進んでいる姿が浮かび上がる。


◆ シャイバニ総裁辞任理由

 大統領と総裁が経済・金融政策に関する立場の違いが大きくなり、総裁が最早耐えられなくなったことが原因。政策をめぐる対立点は、

銀行貸出金利引下げに関する問題
今年5月、「ア」大統領が直接介入して、国営銀行の金利を17%から13%、民間銀行の金利を14%から12%へ引下げた。過剰流動性の恐れから「シャ」総裁は銀行金利は、インフレより高めに設定すべきと反対。イランのインフレは公式には14%で、実体経済面からは少なくとも20%。大統領は流動性の高まりはインフレに直結するとの考えを受け入れない。

中央銀行の幹部人事に「ア」大統領が直接加入
「ア」大統領は2005年8月就任以来、経済・金融経験のない革命防衛隊のメンバーを含む取巻き連を中央銀行の主要ポストにつけてきた。このため欧米で教育を受けた管理職の多くの人材がイラン国営銀行から去ってしまった。

8月、中央銀行の傘下で通貨政策を決定する「通貨・信用委員会」を解体し、他の委員会に吸収させた。

銀行改革に対する路線の対立
大統領の“銀行観”は、利益を上げる必要はなく低所得層に低い金利で資金供給するのが銀行。8月、この考えから銀行法見直しするためと称して、Parviz Davoudi第一副首相を委員長とする委員会を設置した。

石油安定化基金(OSF)の使い方
大統領は石油収入は国民に平等に還付されるべきものとして、人気取り政策のバラマキ財政の歳出を増やしてきており、その財源にOSFを充てている。これに対してOSFを管理する中央銀行総裁は次世代基金として、将来に備えるものとして現在の使い方に異を唱えている。


◆ 後任のマザヘリ総裁について

 新総裁の経歴は、
 ・イラン輸出開発銀行総裁
 ・ハタミ政権で経済問題担当大臣
 ・ボンヤード(財団)理事長
歴任している。マザヘリはイランの指導層に近い。マザヘリが示した国営銀行改革案に「ア」大統領が感銘したとの報道もある。今後の中央銀行は政府に近くなるだろう。 


◆ 「シャ」総裁の評価

 「シャ」総裁は、前任のヌールバクシュ総裁の突然の死後に総裁に就任。米国インディアナ大学経済学博士の学位を持ち、テヘラン大学で教鞭をとっていた。国際金融界では政治と通貨政策を切り離し、限られたコマの中で物価上昇と戦ってきた手腕を評価する声は高い。また、中央銀行の独立性を強める努力に対し、評価を受けている。米国や国連の制裁によりイランは国際金融界の中で孤立している中での辞任はイラン中央銀行にとってマイナスのダメージを蒙るだろう。

以上

(幹事 中嶋 猪久生<なかじま・いくお> )