シティグループへの75億ドルの出資を決めたアブダビ投資庁(ADIA)

(2007年11月30日掲載)

 米国のシティグループは2007年11月26日、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国の政府系投資機関であるアブダビ投資庁(ADIA)から75億ドルの出資を受け入れることを明らかにした。同グループのウィン・ビスチョフCEO代行は「世界で最も洗練された投資家であるADIAによる投資は、シティグループがビジネスの拡大に向け魅力ある機会を追求することを可能にする」と語り、今回の動きを歓迎した。


 資金調達の方法は、シティグループが普通株に転換される出資証券を発行し、ADIAに年利11%を付し、2010年3月15日から2011年9月15日にかけて4回に分けて普通株に転換する。シェイク・アフマド・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーンADIA常務理事は「我々はシティグループが優れたブランド名を持つ成長機会に恵まれた極めて尊敬しうる企業と見なしている」「またこの取引は、ADIAが、シティグループは株主の価値を守ると信頼していることを反映している」と述べ、ADIAが同行を長期的に信頼に足る金融機関と見ていることを示唆した。しかもADIAは出資比率を4.9%以上にする意図を有しておらず、従ってシティグループに役員を派遣し経営に関与することも考えていないという。


 シティグループは信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に絡んで巨額の損失を被ったことから、自己資本が低下してしまい、配当を減らすのではと見られていた。実際、2007年7月~9月期には純利益が前年同期に比べて57%も減少していまい、65億ドルもの損失の計上を余儀なくされていた。


 消息筋によれば、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題の発生によってシティグループの経営不振が表面化したことから新たに会長に就任したロバート・ルービン氏は、11月18日の週には密かにアブダビを訪れ、シティグループの支援に向けたADIAによる資金の提供案を協議していた。また同筋によれば、同会長のアブダビ交渉を設定したのは、サウジアラビアのワリッド・ビン・タラール王子と親しいと言われるシティグループの投資銀行のマイケル・クライン共同経営者であったようだ。


 1976年に設立されたADIAは、従来はサイレント投資家として目立たないように細心の注意を払いながら投資を行っていた。ADIAは余剰資金を時間は多少かかっても安定的な収益の期待できる対象に投資してきた。ADIAは湾岸産油国の政府系投資機関の中でも最も秘密性が高い組織といわれていた。しかし、原油価格の高騰から石油収入が急増したことで運用資産が拡大したことやドル安が進行しはじめたことから、ADIAの投資姿勢にも変化が生じていた。


 アブダビ政府自体も投資戦略を変化させている。まずアブダビ政府は2002年10月、新たな投資機関としてムバダラ開発社を設立し、ナイジェリアの電気通信事業やアルジェリアの発電事業等の事業への直接の投資を開始している。ムバダラ開発社は最近も米国半導体大手のAMDに出資したり、米投資会社カーライルの株式を購入したりしている。またTAQAの名称で知られるアブダビ・エネルギー社はカナダの石油資産を買収したり、代替エネルギー、省エネルギーへの投資を行ったりしている。


 ADIAが今回シティグループへの出資に踏み切ったのは、これ以上の米ドル不安や米経済不信を招かないようにすると共に、最近風当たりの強まっているソブリン・ウェルス・ファンドのイメージの向上を図る、米国に言わば一種の恩を売っておくことで今後の二国間の政治・軍事・経済・社会関係を確たるものとしておく等々の狙いがあったものと推察される。


 尚、最近のGCC諸国による戦略的な海外投資や国内開発投資・開発事業の推進等については、以下をご参照いただければ幸いである。


<戦略的な海外投資>

●パキスタンに総額50億ドルの新規製油所の建設を計画中のアブダビ【11/27】

●米国半導体大手のAMDへの6億ドル出資を決めたアブダビのムバダラ開発社【11/20】

●スウェーデン金融規制庁(FSA)の承認が出たブース・ドバイによるOMX買収案件【11/16】

●セインズベリーの買収提案を取り下げたカタールのデルタ・ツー【11/13】

●インドにITに特化したスマートシティを開発するドバイの技術メディアフリーゾーン庁【11/6】

●投資ポートフォリオが120億ドルに達したドバイのイスティスマール【11/6】

●セインズベリー取得には新たに5億英ポンドの調達が必要となったカタール【11/2】

●ドバイ首長国の投資活動を熱烈歓迎するアフリカ諸国【10/26】

●過去2年でドル建て投資を50%以上も減少させたカタール投資庁【10/12】

●イスラム・グリーン・ファンドの設立を決めたマレーシアとカタールの銀行【10/12】

●カタールのセインズベリー買収に前向き姿勢を示す同社年金基金評議員会【10/12】

●OMX買収を巡り株の買い増しを図るカタールと資金手当てに努めるドバイ【10/5】

●海外エネルギー部門に600億ドルの投資を計画するアブダビ・ナショナル・エネルギー社【10/5】

●OMX買収を巡り株の買い増しを図るカタールと資金手当てに努めるドバイ【10/5】

●海外エネルギー部門に600億ドルの投資を計画するアブダビ・ナショナル・エネルギー社【10/5】

●アブダビ・ナショナル・エネルギー社(TAQA)がカナダ企業を50億カナダ・ドルで買収【9/28】

●米国の投資会社カーライル株を購入するアブダビ首長国のムバダラ開発【9/28】

●シャルジャ(UAE)のユナイテッド・アラブ・バンク株を購入するカタール商業銀行【9/28】

●買収に向けOMXの株式の48%弱の確保に成功したブースドバイとナスダック【9/28】

●ブースドバイとナスダックとの戦略的提携に対抗心を燃やすカタール【9/25】

●エミレーツ航空(ドバイ)が豪州の機内給食配膳サービス会社の株式を取得【9/25】

●コスモ石油の筆頭株主となるアブダビ政府系投資機関の国際石油投資会社IPIC【9/21】

●DPワールド(ドバイ)を含む企業連合が新コンテナ・ターミナル(ロッテルダム)開発・運営契約を取得【9/21】

●アジア投資の比率を引き上げるドバイ・インターナショナル・キャピタル【9/18】

●2020年までに最大3000億ドルに達する見込みの中東投資家による対中国投資【9/18】

●今後1年から1年半で中国に20億ドルの投資を検討中のドバイ・グループ【9/18】

●オークランド空港の買収を断念したドバイ・エアロスペース・エンタープライズ【9/18】

●中国・日本・韓国・ベトナム等のアジア投資に焦点を当てるカタール投資庁【9/14】

●アジア向けに1億ドルの投資を計画するワリッド・ビン・タラール王子のKHI【9/11】

●湾岸マネーに照準を当てるマレーシアのイスカンダル開発プロジェクト【9/7】

●複雑化するドバイ首長国のブースドバイによるOMX買収案【9/7】

●米国カジノを50億ドルで買収したドバイ首長国の持株会社のドバイワールド【9/4】

●ドバイ・インターナショナル・キャピタルが日本株投資へ【9/4】

●ナスダック株式市場とOMX買収を競うドバイ政府系企業ブースドバイ【8/31】

●バーニーズの買収に成功したドバイの投資会社イスティスマル【8/28】

●バンク・マスカットの株式を取得したドバイ・ファイナンシャル・グループ【8/28】

●インドネシアのホテルを買収したワリッド・ビン・タラール王子のKHI【8/10】

●巨額のアジア投資を検討するバハレーンの投資家【8/7】

●改めて注目される中東産油国のオイル・マネーの投資先【8/3】

●中国の地方空港の整備事業に進出するドバイのDNATA【8/3】

●結局、シンガポール企業の全株を取得したドバイ・ドライドックズ・ワールド【8/3】


<戦略的な国内開発投資・開発事業>

●実現に向けいよいよ動き始めたアブダビの「グッゲンハイム美術館」事業【11/27】

●設立2年で総額250億Dh(約68億ドル)の事業を進めるドバイの道路交通庁【11/20】

●炭化水素資源以外の代替エネルギーの開発を真剣に始めたGCC諸国【11/9】

●ドバイの景観を変える総額2240億Dh(約610億ドル、約7兆円)の新運河事業【10/23】

●総額980億ドル超のプロジェクトに取り組むドバイのリミットレス社【10/23】

●アブダビで73階建の摩天楼ビルを建設するシャルジャのタミール社【10/23】

●「ルーブル・アブダビ」美術館事業への協力を承認したフランス議会【10/16】

●今後益々重要性を増す中東・北アフリカ諸国での運輸・鉄道プロジェクト【10/9】

●地域ハブを目指し空港拡張事業と新規鉄道敷設事業を推進するアブダビ首長国【10/9】

●アブダビを中東進出の拠点と決めたワーナー・ブラザース・エンターテインメント【10/2】

●「アブダビ未来エネルギー社」と「マスダル科学技術研究所」を設立したアブダビ首長国【9/25】

●ドバイ金融市場(DFM)とドバイ国際金融取引所(DIFX)の持株会社を設立したドバイ【8/10】


<その他の動き>

●自国の国際金融市場でのIPOで49億6000万ドルの調達を決めたドバイのDPワールド【11/27】

●サブプライムローン危機を対米投資の好機と捉えるドバイ国際金融センター【11/22】

●IPOで43億ドル強を調達見込みのドバイのDPワールド【11/13】

●カタール投資庁に続きその他GCC諸国の基金もドル離れに動くと見るアナリスト達【10/12】

●UAE通貨ディルハムの対ドル為替レートの変更は必至と見る湾岸の専門家達【10/12】

●買収案件のためにIPOを含む資金調達を急ぐドバイのDPワールドほか【10/12】

●ドル・ペッグ制の堅持を表明したサウジアラビア、UAE、カタール【10/2】

(11月28日、記)
(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)