国際社会との核開発交渉を巡り不協和音が聞かれ始めたイラン指導層

(2007年11月16日掲載)

 国際社会との核開発交渉を巡る不協和音が俄かにイランの指導層内から聞こえ始めている。2007年11月12日、イランの核開発に妥協の余地はないとの強硬姿勢を堅持するアハマディネジャド大統領が自らの核開発政策への反対者を公に国家の裏切り者呼ばわりするかと思えば、翌11月13日には、やはり強硬姿勢に賛同するゴラム・ホセイン・モフセニ・エジェイエ情報相が、ムサビアン元核開発交渉責任者が外国に情報を流していたと非難している。


 他方、アハマディネジャド大統領の強硬路線に疑問を呈してきたラフサンジャニ公益評議会議長兼専門家会議議長は、2007年11月12日、ムサビアン元核開発交渉責任者を脇に置きながら、「イランの直面する経済・軍事両面の脅威は真剣に受け止めねばならない」と語り、大統領の核開発政策の危険性を指摘した。またアリ・ハメネイ最高指導者が、改革派及び保守現実主義派の双方から、アハマディネジャド大統領の核政策は国家の安全保障を脅かしているので抑制すべきとの圧力を益々受け始めているとも言われている。


 イラン国内の政治評論家は「アハマディネジャド大統領の発言は政権内部で緊張が高まりつつあることを示唆している」「アハマディネジャド大統領は大きな包囲網によって取り囲まれつつあるので慌てている」「ラリジャニ前核交渉責任者のような大統領を素通りして物事を決めるような人物を避け決してそのような行動を取らない人物を有力ポストに就ける動きは、アハマディネジャド大統領が如何に身の危険を感じているかを示している」と論評している。


 アハマディネジャド大統領は2007年11月12日、科学工業大学の学生を前にした講演の中で、「仮にイラン国内の西側のスパイがその動きを止めねば、氏名を国民に明らかにすることになろう」「もっとも微妙な問題なので直ちに明らかにはしない」「我々は彼らが西側に情報を開示するために特使を送ったことを知っている」「彼らは毎週敵側に人を送り情報を与えていた」「この中の一人が、敵国に、何故断念するのか?イランが交代するよう圧力を高めるべきだと語っているテープすら持っている」「しかも、こうした一派は西側諸国に対イラン制裁の採択を延期しないよう促している」「この人物がスパイであると知った裁判官は釈放するよう圧力を受けた」「犯罪者を法から逃がしてはいけない」と暗にホセイン・ムサビアン元核開発交渉責任者を示唆しながら、イラン国内に西側と内通する裏切り者がいるとの説を展開した。因みに、ムサビアン元核開発交渉責任者は2007年5月に突然10日間ほど拘束されたものの、その後釈放された。ムサビアン元核開発交渉責任者はハタミ前大統領、ラフサンジャニ元大統領の下でその職を務めたほか、1990年代には駐ドイツ大使として欧州に赴任していた。


 元大統領であるラフサンジャニ公益評議会議長兼専門家会議議長は同日、一次拘束後初めて公の場に顔を見せたホセイン・ムサビアン元核開発交渉責任者と共に会場入りしたばかりか共に退場し、同氏を擁護する立場を明確にした。ラフサンジャニ公益評議会議長兼専門家会議議長は「米国は自らが望むところへはそこがどこであれ軍隊を派遣してきた」「危険は真剣なものであるので、各自がイランの国益の維持のいために努めねばならない」と述べ、アハマディネジャド大統領の核開発交渉を巡る政策を批判している。


 同元大統領と歩調を合わせるようにムハンマド・ハタミ前大統領も、2007年11月8日、「自らの考え方を強制する人々が国家を統治するのは危険なことである」と述べ、イランと国際社会の間に横たわる危機が拡大しつつあることに警告を発している。


 アハマディネジャド大統領とラフサンジャニ公益評議会議長兼専門家会議議長が角を付き合わせた翌11月13日、ゴラム・ホセイン・モフセニ・エジェイエ情報相がファルス通信で「ホセイン・ムサビアン元核開発交渉責任者は英国大使館を含む外国勢力に情報を与えた罪を問われた」とホセイン・ムサビアン元核開発交渉責任者を名指しして非難している。


 こうした中、イラン議会は11月14日、空席となってきた石油相と工業相の候補者を承認した。出席議員246名中の217名の賛成を得たゴラム・ホセイン・ノザリ石油相は議会で、「国際ガス市場でのイランの地位の向上に努めたい」「イランは今年度で600億ドルの石油・ガス収入を得よう」「イランにとって原油価格の実勢は、ドル安があるので1バレル55ドルである」「石油・ガス事業には今後20年で4000億ドルが必要となる」等と述べ、全力を尽くして職責を全うする意向を示した。同日にはアリ・アクバル・メフラビアン工業相も議会承認を受けている。但し、同相の承認に際しては、経験不足を指摘する議員も少なくなかった。


 イラン国内の政治評論家は「これら2名と9月に任命されたタフマスブ・マザヘリ中央銀行総裁という顔ぶれから判断して、低所得者を対象にばら撒き財政を貫く政策に反対する人物は除去したということであろう」と解説している。たまさかイランン政府は、新年度予算についてはこれまでのような詳細案を提示しなくても良いことを決めており、議会やマスメディアによる歳出の詳細な管理を避けることが出来るようになっている。

(11月15日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)