イランによる英海軍兵士の拘束と米軍の湾岸での最大規模の軍事演習

(2007年3月30日掲載)

 
国連安全保障理事会は2007年3月24日(米国東部現地時間)、対イラン追加経済制裁を全会一致で採択したが、その前日の3月23日、イラン革命防衛隊による英海軍兵士15人の拘束事件が発生し湾岸に緊張が走っている。また同事件発生4日後の3月27日からは米海軍による湾岸での非常事態を想定した大規模軍事演習が開始され、湾岸の緊張状態はさらに高まっている。


 主張が真っ向から対立するイランによる英海軍兵士の拘束

 3月24日付けのイランのファールス通信は、湾岸北西部で船舶の臨検を行っていた英海軍兵士15名が、イラン領海に位置していたことから、イラン国境警備隊によって拘束されたと伝えた。事件の発生したのはイラン・イラク国境を流れるシャット・アル・アラブの河口付近であるが、英国側は当初から英海軍兵士はイラン領海にはいなかったと主張している。事件発生から本稿執筆時点までの両国の主な動きや主張を整理すれば次のようになる。

月 日 イラン側の動き・主張 英国側の動き・主張
3月25日 ブレア首相がベルリンで記者団に、「英兵がイラン領海に入った事実はなく、イランの対応は不当である」と語る
モッタキ外相がベケット英外相との電話会談で、捜査終了後の英兵の接見を認める意向を示唆。 ベケット外相がモッタキ・イラン外相と電話会談し、英兵の即時釈放と接見を求める。
  26日 アダムズ駐イラン・英大使が、イラン外務省高官と会談し、英兵の即時釈放と接見を求める。
 27日 外務省関係者が、英兵士は元気であり人道的待遇を受けていると強調すると共に、事情聴取が終了次第、英外交官等の英兵への接触を認める意向を示す ブレア首相が、英兵の釈放に向けたイラン側との交渉が失敗した場合、別の段階に移る用意があると語る
 28日 国防省が、英国が軍隊を派遣したとの市場での噂を否定
駐英・イラン大使館が、事件発生時、英兵はイラン領海へ0.5 km入った地点で拘束されたとの反論声明を発表 国防省が、事件発生時、英兵がイラク領海へ約3.1km入った水域にいたとするGPS(全地球測位システム)の座標データを公表
モッタキ外相がアラブ首脳会議開催中のリヤドで、拘束されている15名中の唯一の女性兵士は間もなく(28日か29日に)解放されると語る ベケット外相が下院で、英兵士15名が無事解放されるまでの措置として、解放のための交渉を除く政府間交流の一部を凍結すると発表(両国政府高官の相互訪問停止、イラン政府高官へのビザ発給停止、経済使節団の中止等)
国営テレビが、米軍の湾岸での軍事演習について、全く懸念していないが注意深く監視しているとのコメントをテロップで流す
アラビア語衛星放送のアル・アラムが、拘束されている15名中の唯一の女性兵士フェイ・ターニーさんのインタビューを放映。「明らかに我々は彼らの領海を侵犯した」と語る
 出所:各種報道から作成。


 緊張高める米軍の湾岸での最大規模の軍事演習

 米海軍の空母ジョン・ステニスが2007年3月27日、湾岸に到着し、既に同海域で警戒行動中の空母ドワイト・アイゼンハワーと共にイラク戦争開始後、最大規模の軍事演習を開始した。潜水艦の追跡や機雷の探知等を目的とする両空母の合同軍事演習には、航空機100機超、兵士1万人超が参加している。但し、米国側はゲーツ国防長官が「対イラン戦争計画はない」と述べ過度に刺激しないような発言をおこなっているものの、湾岸に到着した空母ジョン・ステニスのジョハンソン艦長は「(今回の大規模な演習は、イランに対しては)威嚇的行動を取るのであれば慎重にしたほうが良いとの明確なメッセージである」とイランにとっては刺激的な説明を行っている。因みに、軍事演習はイラン領海から約19kmの水域で実施されている。


 イランの核開発を巡る問題が複雑化するなか、軍事力を誇示することでイランをけん制する狙いがあるものと思われる。米国としては、国連安保理による制裁、米欧日等による金融封じ込めに、湾岸での軍事演習による圧力を加えることでイランの孤立化や閉塞感を高め譲歩を引き出すことを目指していると推察される。また最悪時のイランによるホルムズ海峡の封鎖等の事態も想定し、湾岸の米軍を増強することで原油の輸出ルートを予め確保するとの意図もあるようだ。


 尚、周知のように、湾岸にはフランスの空母シャルル・ドゴールを中核とする戦闘艦隊も2007年3月中旬からアフガニスタン任務のためにアラビア海に展開しており、米海軍と共同しながら警戒活動に当たっている。フランス消息筋は、今回フランス政府が艦隊を派遣したのは、シラク大統領が2007年5月の退陣を前に、2月に行った「世界はイランの核爆弾1発や2発と共存する方法を学ばねばならぬ」との趣旨の発言が生んだ悪印象を消し去りたいためとしている。

(3月29日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)