イラク新石油法制定の行方 その②:開発契約方式をめぐる論争

(2007年6月29日掲載)

◆ 新法には契約形態の規定はない


 イラクの石油開発をめぐる今後の契約形態について、新法の原案は契約方法を特に規定していない。今回の新法の原案つくりにも参画した元イラク国営石油公社幹部で、現在、ロンドンで石油コンサルタントをしているTariq Shaiq氏は次のように語る。 

新法の中では3つの契約形態が定められているが、どの油田開発にどの契約形態が適用されるという規定はない。3つの形態とは、
・生産物分与契約(PSA; Production Sharing Agreement)
・操業契約(OSA; Operating Service Agreement)
・バイ・バック契約(Buy-Back Contract)

上記の契約形態の場合、外国石油会社による投資回収に伴う利回還元率がどの程度に設定されることになるかは新法の中では規定されていない。“公平な利回り”という表現だけだ。しかし、“公平な”という意味は20%を上回らないと解釈される。


◆ PSAに関する賛否論争

 クルド自治政府(KRG)が求めている契約方式はKRGが既に外国石油会社と結んだPSA方式にすべきだと主張する。他方、最善の選択肢はPSAではなく、操業契約だと強調する勢力もいる。当初、KRGは5月末までに石油新法が採択されない場合には、PSAでこのまま契約を続けていくと、ハウラミ天然資源相は語っていたが、6月末時点でKRGは強硬策に打って出てきてはいない。

 新法が制定されれば、外国石油会社に利益をもたらすPSAが主流になるということで、特にイラクの石油専門家には反対論が強い。元々、PSAは処女地を探査したり、資源が地下に埋蔵されているが、開発リスクを伴う油田から原油を生産するような資金も技術もない産油国に適用されてきた方式。しかし、イラクは違う、と主張する。その理由はイラク油田の特殊性。

イラクの油田開発は世界中の何処に比べてもリスクは少なく、生産コストは最も安い。イラク原油1㌭あたりのコストは50㌣~1㌦の間。

産出する原油はプレミアムをつけて市場で売れる高品質の原油。

イラクの場合、PSAは政治的理由のために供与された。1990年代、サダム時代に中国やロシアとのPSA、フランスとの優先開発交渉権などは経済的というより政治的理由によるものであった。国連による経済制裁解除に向けて安保理の常任理事国3カ国に“石油開発利権外交”(注)を展開した政治性の強い動機によるものであった。

  
(注) 上記3国がPSAを前提とした開発契約の事例は、

油 田 埋蔵量
(億㌭)
参加企業 契約内容など
West Qurna Phase-Ⅱ 100~150 Lukoil
Zarubezneft
Machinoimport
1997年PSA契約締結
Al-Ahdab 14 CNPC
Norinco
1997年PSA契約締結
Majnoon 200~300 Total
(当初Elf)
1997年PSAを前提とした優先開発交渉権
Nahr Umar 60 Total 同上


◆ クルド自治政府(KRG)の主張

 現在、KRGはクルド地域の油田開発のため外国石油会社5社(DNO, Addax Petroleumなど)とPSA契約を締結し、一部は年内に操業を開始する計画。石油新法が遅れることになれば、独自に開発契約を進めていくと、天然資源相は 語っている。名前の挙がっている外国石油会社は約10社で、OMV(オーストリア)、Marathon、Anadarko(いずれも米国)、中国、BG、Sterling Energy(いずれも英国)、Statoil(ノルウェー)が有力視されている。これらの契約の中で、外国石油会社への利益還元率については、

  ・ 全体の還元率    20~25%
  ・ 探査のみの場合   13~18%


◆ 中央政府のシャハリスタニ石油相の発言振り

 本年4月、訪日したシャハリスタニ石油相は取材を受けて次のように応えている。

質問:  石油新法では具体的な契約方法は書かれていない。PSAになるのですか?

回答:  新法の原案は契約方法を特に規定していない。どうなるかは首相が率いる連邦石油ガス委員会(注)が決定することになっている。どの油田にどの契約方法を適用するのかを決めるのです。例えば、一部の生産をしている超巨大油田の場合、開発リスクを伴わないため、この場合には、操業サービス契約(OSA)が適当でしょう。

 他方、地質学的に複雑で、開発に最先端技術が必要でリスクも高い油田場合には異なった契約形態になるでしょう。連邦石油ガス委員会が決定するのです。現在、石油省ではどの油田にはどういう契約形態が適当なのかモデルつくりをしています。


(注) 連邦石油ガス委員会の構成
イラク最高評議会の構成メンバーである首相を議長とし、石油相、財政相、企画相、中央銀行総裁、クルド自治政府天然資源相、石油新法に基づき設立されるイラク国営石油公社(INOC)総裁により構成される。

以下次号

(幹事 中嶋 猪久生<なかじま・いくお> )