対イラン金融制裁の効き目はボディーブロー

(2007年6月1日掲載)

 イランのシャイバニ中央銀行総裁は「イラン経済は国連制裁に耐えられる。絶えるだけの外貨準備(500~1,000億㌦)をを保有している・・・また、国連の追加制裁はイラン経済にさほど関係のない分野に限られており、現時点でも影響はなく、これからもないだろう」と誇らしげに語っている。

 他方、昨年10月以来の米国の金融制裁による締付は、益々、ボディーブローのように効いてきており、強がりは言っていられない状況に追い込まれつつある。直近の効き目の程度について具体例を挙げてみる。


◆ プロジェクトの行方

 3月24日の国連制裁1747により状況は前より悪化しており、その試金石となるのは現在進行中の3プロジェクトの今後の帰趨が注目されている。

イスファファンでの製油所建設の覚書締結
総事業費17.2億㌦、コントラクターはドイツ及び韓国企業
フランス・ルノー生産ラインの建設
総事業費3.7億㌦
17ヶ所の新たな開発鉱区の提示
外国石油会社は対象鉱区の入札資料を購入中であるが、実際に応札するかどうかはわからない。国営石油公社NIOCによればTotal, Royal Dutch Shell, OMV, Petrobras, Petronasを含む外国企業11社が入札用書類を購入している。しかし、バイ・バック方式による操業開始は米国による圧力により何年もかかってきた。契約までの期限が延びたとはいえ、新たな契約は進展しそうにない。

 上記3件の事例ばかりではなく、ガス開発の契約問題でも契約がこのままスンナリいくとは思えない。ShellによるLNG予備契約の締結問題(Persian LNG)について、イランのメディアは米国による制裁が効果のないものとして高らかに宣伝したが、米国議会の圧力もあり、Shellの投資決定はまだまだ先のことになるだろう。

 TotalによるLNG契約(Pars LNG)も米国議会の圧力、開発コストの高騰、ガス価格の問題に加え、South Pars 2 & 3の契約でTotalがイランに手数料の不正支払い(キック・バック)容疑で捜査を受けていることもあり、このまま契約締結に進むことはなさそうだ。

 イランにとってこのような状況の中で希望を繋いでいるのはパキスタン経由インド向のIPIプロジェクト(総事業費80億㌦)。

 国連安保理決議1747による締付は以前にも増して、イランの政治リスクを高める結果となっている。6月にはイランの核開発問題と制裁の見直しを行うことや、米国によるイラン・ビジネスを止めさせる圧力や金融部門からの締付が効いてきていることもあり、イランにとって状況は悪化の一途を辿っている.


◆ 決済代金の支払いは現金ベース

 金融制裁による締付が厳しくなるにつれて大きく浮上するのは支払い問題。ドル建て取引は米国の金融制裁(Bank Saderat / Bank Sepah)のため一層困難になっている。さらに、大型開発案件に必要なプロジェクト・ファイナンスを確保できなくなっている。また、イランで進行中のプロジェクトに必要な貿易信用の確保もさらに困難になっている。

 イランの非居住者への支払いが増えるにつれて、プロジェクトは益々現金払いの形になっていく。過去数年のプロジェクト遂行のため資金タイトになっている。政府の人気取り政策のため財政支出が増加しているが、その大半は社会開発計画のためのものであり、石油投資に向けられていない。石油安定化基金(OSF)の本来の使途(民間企業向融資や石油収入の補填)ではなく、今ではガソリン輸入を恒常的に補填するなど財政赤字の穴埋めに使用されている。金融制裁はこういう面にまで効いてきている。同基金の残高は約90億㌦とも言われているが、実際には資金使途が決まっているものが多く、実態はoverdrawn(基金への組入を見込んで先食いする状態)で、台所は火の車といってよい。


◆ コストの上昇

 イランで操業したいという外国企業は減ってきた。米国の更なる制裁に懸念を持ち、さらに価格も高騰しているからである。現地のコントラクターに因れば建設機材のレンタル料も跳ね上がり、その上、イラン・リスクに伴う“リスク・プレミアム”が20~40%上乗せされるようになっている。

 また、プロジェクトに占める外国企業の持分は約50%前後ではあるが、全てのリスクを背負い込むリーダー役が見当たらなくなってきている。外国企業にとって魅力的でない投資条件と米国の圧力の下ではイランは“地雷原”になりつつある。

以 上

(幹事 中嶋 猪久生<なかじま・いくお> )