イラク情勢を巡り27年振りに公式協議を行った米国・イラン

(2007年6月1日掲載)

 2007年5月28日、イラクの首都バグダッドのグリーンゾーン内のマリキ首相府において、27年振りとなる米国とイランとの直接協議が行われた。4時間に及んだ協議で米国側を率いたのはライアン・クロッカー駐イラク大使であり、他方、イラン側を率いたのはハッサン・カゼミコミ駐イラク大使であった。


 協議終了後、クロッカー米大使は記者会見で「協議は前向きに行われビジネスライクであった」「双方がイラクの安定化を望むことを表明した」と述べた。他方、カゼミコミ・イラン大使は記者団に「一般的に言って協議では前向きな成果があった。両国にとって重要な第一歩であった」と語った。


 実際の協議では、米国側が、イランによるイラクのシーア派民兵組織やスンニ派武装勢力への武器類・爆発物類等の供与に対して懸念表明し停止を求めたのに対して、イラン側は、米国の指摘には言及せず、代わりに、「連合国軍は占領軍でありイラク不安定化の元凶であると同時にイラク軍・警察の訓練が不十分であることも問題であると反論したとされている。さらに、イラン、イラク、米国の3カ国によるイラクの治安問題を協議するための専門家会議の設置を呼びかけたのに対して、米国側はこのイランの新提案には触れず、イランが実際行動で何を示すかが重要であることを強調したと言われている。


 元々、27年間に亘り直接の公式協議を開いてこなかった両国が、たった一回の協議で相互不信を払拭し実質的な交渉入りすると期待すること自体に無理があろう。むしろ4時間もの協議を行ったとの事実が、両国の指導者が如何にそのような対話を必要としていたかを物語っているのではないか。例えば「ブッシュ米大統領が後押しし、そしてイランのハマネイ最高指導者が支援しなければ協議は起きなかったであろう」とミシガン大学のイラク専門家のジュアン・コール氏と分析している。


 ブッシュ大統領にとって今回の対イラン協議は、イラクの安定化のためには如何なる外交努力でも払う用意のあるとの新たな決意を示すものであると同時に、政権内で現実主義的な外交政策を主張する勢力が伸張しつつあることを示唆するものでもあろう。具体的には、ライス国務長官に加えて、ゲーツ国防長官、ペトロウス駐イラク最高司令官、クロッカー駐イラク・米大使の新イラク・チームの影響力が高まりつつあることを意味していよう。


 他方、イランでもハメネイ最高指導者は、自らが開いた西側との対話の扉を維持し国際社会と新たな関係を構築したいと考えていると推察される。ハメネイ最高指導者は、今回の米国との協議が、中東、特に湾岸で勢力を持つ国家としてのイランを認識させ対等の立場に立った米国との関係に道を開くことを期待しているものと思われる。自国とイラク、米国との3カ国によるイラク治安問題を協議するための専門家委員会の設置の呼びかけは、そうした立場からのものであろう。


 ところで、米国では、ブッシュ大統領はイランとの外交的接触を真剣に取り上げ過ぎと見ているとされるチェイニー副大統領を中心とする人々が対イラン協議に反対している模様だ。他方、イランでは対米協議に反対する勢力によると推察されるイラン系米国人の拘束事件が連続発生している。イラン内のこうした勢力が、イランは米国と対峙することで勢力を伸ばし影響力を拡大してきたと考えているためである。


 今後、さらに協議が重ねられることになるとした場合、協議に前向きな両国関係者にとっては、両国関係の改善を望まない国内勢力の反対論を如何に封じ込めて行くかが課題となってこよう。

(5月30日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)