ブルガリア人看護師とパレスチナ人医師をようやく解放したリビア

(2007年7月27日掲載)

 リビアで438人の子供をエイズウィルス(HIV)に感染させたとして最終的に終身刑となっていたブルガリア人看護師5人とパレスチナ人医師1人が解放され、2007年7月24日午前10時(現地時間)にフランス大統領機でブルガリアの首都ソフィアに到着し、直ちにジョージ・パルバノフ・ブルガリア大統領の恩赦によって刑が免除された。同大統領は、リビア側に配慮するように、「実刑判決を受けていた無辜のブルガリア国民の劇的事件は終焉を迎えた。我々は依然、感染したリビア人の子供とその家族の悲劇に同情している」と語り、リビア人の子供の感染という悲劇に言及した。


 尚、同機には、解放に向けた最終交渉のために7月22日からリビア入りしていたサルコジ・フランス大統領夫人セシリアさんや欧州委員会のベニタ・フェレロワルトナー委員(対外関係及び欧州近隣国政策担当)も同乗していた。またパレスチナ人の医師には、ブルガリアで恩赦が得られるように、2007年6月時点で市民権が付与されていた。


 欧州委員会のベニタ・フェレロワルトナー委員(対外関係及び欧州近隣国政策担当)は、リビアから今回の解放を引き出すために、EUが、リビア製品へのEU市場の開放から始まってリビア人のEU入国ビザ取得の容易化に至るまでの、総額数十億ユーロと見込まれる広範囲に亘る政治・経済関係改善のための包括案の供与を決めたことを明らかにした。


 同委員は具体的には、「この取引はEUとリビアとの関係の改善を謳っており、EU諸国が2007年10月での協定の締結に向けた包括的協議を支持することを期待したい」「取引には、EUによる農産品や水産品といったリビア製品の輸入、欧州に留学するリビア人学生への奨学金の供与、リビア人に対する欧州入国ビザの簡素化、リビア向け遺跡修復援助の供与、リビア経由で欧州に向かう不法入国者の取り締まり支援などが含まれている」「またこの取引には、HIV感染児童の家族向けの人道的支援(4.61億ドル、3.33億ユーロ)への自発的献金も含まれている」「世界中の献金希望者はこれに応じることが出来るが、欧州委員会だけで既に過去数年で、医師の訓練、病院設備の供与などとして1730万ドル(1250万ユーロ)を寄付してきた」と語っている。


 EUのバローゾ欧州委員長は、2007年7月24日、「EUはリビアとの関係正常化を望んでいた」「EUとリビアの関係は、相当程度、この問題が未解決であることで阻まれていたが、解決により関係が進展することに期待したい」と述べ、これを契機として両者の関係が目に見えて改善することに期待を表明した。


 他方、リビアのアブドゥルラフマン・シャルガム外相は、2007年7月24日、「リビアとEUは、ブルガリア人看護師等の解放によって、完全なパートナーシップに発展させることで合意した」「ベニタ・フェレロワルトナー委員と締結した協定では、EUはHIVに感染した子供を終生治療することを誓約しているし、子供たちが感染したベンガジ病院の改善に向けた援助も約束している」と語り、今回のEUとの合意内容に満足の意を表明した。


 リビア側は、今回の解放を前にした交渉の最終局面で、EUが地中海の東岸や南岸の諸国と結んでいる協定への参加を求めてきた。周知のように、バルセロナ・プロセスというEUの地中海諸国との協定は、政治・経済・社会及び文化の各側面での協力関係の強化を謳っており、地中海の東岸・南岸の諸国はEUからそれぞれ支援を得られる内容となっている。但し、その資格を得るためにはテロの非難や政治・経済改革の確約等が必要となっている。


 ところで今回の解放交渉では、7月12日と22日の2度に亘りリビア入りしカダフィ大佐と本件で話し合いを行ったセシリア・サルコジ・フランス大統領夫人の動きが大いに注目された。但し、実際には、欧州委員会のベニタ・フェレロワルトナー委員(対外関係及び欧州近隣国政策担当)をはじめとするEU高官の度重なるリビア訪問による説得工作が功を奏した点を忘れてはならない。


 またサルコジ・フランス大統領が言及しているように、最終局面で湾岸のカタールが舞台裏で尽力した点も見過ごしてはならない。サルコジ大統領は「EUもフランスも解放のために資金を供与してはいない」と記者団に述べた後、「カタール政府による調停と人道的介入に感謝したい」「自分もEUのバローゾ欧州委員長も、交渉のテーブルに友好国を連れてくる必要性を感じていた」「この問題で何か言うことがあると考えるか否かはカタール次第である」との思わせぶりな言い回しで、カタールの資金面での支援もあったことを匂わせている。


     表 リビアのHIV感染事件のクロノロジー

年 月 内     容
1999年02月 リビア勤務のブルガリア人看護団の19人が、ベンガジ病院でのリビア人の子供のHIV感染の事件で拘束される。その後、13人は釈放される。
2000年02月 上記の事件で、ブルガリア人看護師5人、パレスチナ人医師1人及びリビア人関係者9人の裁判が行われる。容疑は、意図的に426人の子供にHIVを感染させたというもの。
2003年09月03日 フランス人医師が、感染は、発覚する1年前から見られたと証言する。
同 上09月08日 リビア検察当局が、ブルガリア人看護師5人、パレスチナ人医師1人に死刑を求刑する。
2004年05月06日 リビア地方裁判所が、ブルガリア人看護師5人、パレスチナ人医師1人に死刑判決を下す。
2005年06月07日 トリポリ裁判所が、被告人たちを拷問したとして訴えられていたリビア人警察官9人と医師に無罪判決を下す。
同 上12月25日 リビア最高裁が死刑判決を無効とし、事件を下級審に差し戻す。
2006年01月21日 被害者家族が、事件解決に向け、献金者に44億ユーロ(55億ドル)を求める。
2006年07月04日 再審で被告団は再度無罪を主張する。
同 上12月06日 リビア人のHIV感染の子供たちからウィルスを検出した国際的科学者たちが、外国人医療団のリビア入国前から感染が始まっていたことをデータによって示す。
同 上12月19日 リビア裁判所は、7ヶ月の再審を経て、ブルガリア人看護師5人、パレスチナ人医師1人に死刑判決を下す。
2007年07月17日 HIVに感染した子供たちの家族が、ブルガリア人看護師5人、パレスチナ人医師1人の判決通りの刑の執行要求を取り下げる代わりに、一人当たり100万ドルを受け取る。
同 上07月18日 HIVに感染した子供たちの家族に一人当たり100万ドルが支払われたのを確認したリビアの最高司法評議会が、死刑判決を終身刑に減刑する。(注:1)

注1:その過程で、リビアがブルガリア人看護師5人、パレスチナ人医師1人(但し、6月にブルガリアの市民権を獲得済み)をブルガリアに引渡し、ブルガリアで刑に服する形を取りつつ恩赦で減刑とする案を巡り、リビアとEUの関係の引き上げ、HIVに感染した子供の家族にカダフィ開発基金が提供した資金部分の何らかの形での補償などについて、リビア政府とEU当局、ブルガリア政府等の間で協議が続けられていた。


(7月25日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)