●イラン経済
  その⑤  後退を余儀なくされるエネルギー分野のプロジェクト


(2006年11月28日掲載)


 イランの核開発問題が緊迫する国際情勢の中で、エネルギー関連プロジェクトが大幅な後退を余儀なくされている。その理由は、

外国企業によるプロジェクト参加の控え、
資金調達の遅れ、
資金不足に伴い最新技術の持込が出来ない、
建設工事をイランの建設会社へ転換したことにより工期の遅れやコスト高につながっている、

 などが挙げられる。具体的に遅延が発生しているエネルギー関連プロジェクトとその背景、国際金融市場でのイランに対する評価をみてみる。


◆ 遅延するプロジェクト

 現時点で工期の遅れが出ているのは石油及びガス開発部門で次の通りである。


Kharg NGL Plant

既に数年の工期遅れ。2006年はじめに再入札。ここからのガス供給の遅れは関連する下流部門の石化事業操業に大きな支障をきたしている。最速でも2010年に完成予定であるが、実際にはもっと遅延するといわれている。

South Parsガス開発計画

2003年にイランの地場企業が落札。この落札を契機に公正な入札競争が出来ないという外国石油会社の意識が高まった。さらに2006年、ハメネイ最高指導者の直轄下にある革命防衛隊傘下のGhorb社がSouth Pars(15 & 16)の設備建設の主契約者となった。
当初の入札ではノルウェーのAker Kvaerner社を主契約者とする外国企業とイラン企業とのコンソーシアムであったが、入札をやり直し、イラン企業のGhorb社が選定されたという経緯がある。契約額は23億㌦。このうちGhorb社が建設事業を20.9億㌦で請負う契約が締結された。


LNG開発

イランには現在、2009-10年の操業開始を目指す3つのLNG開発計画があるが、いずれも進展がみられない。具体的には、


プロジェクト名 主契約者 遅延状況
Pars LNG Total/Petronas EPC tenderが出ているがその後の進展はない。
Persian LNG Royal Dutch Shell/Repsol 千代田化工建設とTechnipがFEEDコントラクター
EPC tenderは2007年を予定。
NIOC LNG イラン企業 外国パートナー及びLNG購入先が見つからない。

IPIパイプライン建設

イラン産天然ガスをパイプラインでパキスタン経由インドに輸出する計画(総延長2,500㌖、総投資額80億㌦、工期2011年)。ガス価格をめぐりイランとインドが激しく対立。パキスタンはインドに同調。ガス価格という経済性の問題以上に、米国がインドの民生用原子力発電建設に協力することに合意したことはIPIパイプライン・プロジェクトの進捗に大きな影響を及ぼしている。


Azadegan油田開発

国際石油開発の開発利権が75%から10%に下がり、操業権を返上したことから当初の操業計画より大幅な遅れとなることが確実。第四次5ヵ年計画が終了する2010年までにイランの生産能力を現在の420万b/dから推定年率8~13%の減少率(生産量約50万b/d)をカバーして500万b/dに増強するには間に合わない。イラン企業による自力開発では計画通りの産油量26万b/dはまず不可能。


Yadavaran油田開発

イランの核問題をめぐる国際情勢の中で唯一のエネルギー・パートナーである中国との関係を深めている。Azadegan及びYadavaran油田開発は上記の5ヵ年計画のエネルギー部門の2本柱。しかし、中国にとってはYadavaran油田開発やその他のプロジェクトで中国に有利な条件が提示されない限り契約締結が長引く可能性もある。中国は中央アジア経由のエネルギー供給取引に熱い視線を注いでいるからだ。


◆ 資金調達の遅れ


 この数年間、拡大するエネルギー関連プロジェクトの資金調達に伴い、イラン・ビジネスは銀行にとって魅力的であったが、核開発問題や国連による経済制裁の可能性も高まってきたことから、プロジェクト・ファイナンスも失速し始めており、貿易金融にもその影響がみられるようになった。核問題が深刻化する前と後にはその影響がはっきりと出てきている。核問題が発生する直前の資金調達の事例は次の2件。


National Petrochemical Co.(NPC)傘下のPars Polypropyleneに対する輸出信用供与5,900万㌦及び融資8,000万€
輸出信用機関(ECA; Export Credit Agency)による信用供与は2005年9月、融資は2006年2月。ECA供与及び融資した銀行は国際協力銀行(JBIC)、Deutsche Bank、Standard Chartered Bankの三行。


Esfahan Steel Co.向7,000万㌦の協調融資。2005年12月。貸出銀行はいずれもアラブ諸国の小規模な銀行。


 しかし、核問題が深刻化して以降、イランの将来を担う3つの大型LNG(上記❸)プロジェクト・ファイナンスが頓挫し出している。通常であれば、この3プロジェクトのうちの一つは今年前半にも建設業者の選定と資金調達計画は出来上がっていたはず、と国際金融筋は語っている。いずれも国際石油資本が関与し、資金調達計画もロンドンの国際金融機関を中心に進められる計画になっていた。3つのLNGプロジェクトのfinancial adviserは次の通りである。

  Pars LNG BNP Paribas (フランス)
  Persian LNG Societe Generale (フランス)
  NIOC LNG 香港上海銀行(HSBC、英国)

 エネルギー開発には巨額な資金が必要とされるため資金調達能力を持つ銀行の存在が不可欠で、また、同時に銀行はプロジェクト・ファイナンスのノウハウを持っていることが求められる。イランの国営銀行には自国の大型プロジェクトに融資するだけの機能も能力もない。2005年、South Pars 17-18及び21-22の開発プロジェクトの資金調達でイラン最大の国営商業銀行Bank Melliを中心とするイラン地場銀行団のコンソーシアムが結成されたが、イラン国営石油会社(NIOC)はこれを無視し、国際銀行団に声をかけたくらいである。イランの銀行がサウジアラビアやカタールのように金融面のノウハウを持つまでには長い道のりが必要なのである。


◆ イランの格付

 先進諸国の輸出信用機関(ECA)による与信供与の場合に参考とされる指標はOECDの国別リスク評価(8段階評価で「0」は最もリスクがない、「7」は最も危険度が高い、とする評価方法)であり、この評価によればイランは上から5番目の「4」。


 日本を含む欧州各国のイラン向ECA枠はほぼ一杯となっており、核問題が深刻になるにつれて新規の輸出信用供与が実施されたというニュースはない。従来の積極方針から「慎重な対応」に転換している。


 ロンドンの格付機関Fitchは本年2月、イランの格付(Sovereign Risk Rating)を「BB-」から1ノッチ引下げ、「BB-」Negative outlookとした。引下げの理由として以下の要因を指摘している。

イランの核問題と国連による制裁発動の可能性の高まり
過去1年間の経済政策の失敗
石油収入や石油安定化基金(OSF)の利用の誤り、公共料金の凍結や各種補助金の増加


以 上

(幹事 砂野民男<すなのたみお>)