全土制圧まで先送りとされていたが急遽一部のみの改造の発表となったリビア暫定政権とカダフィ大佐の三男サーディ氏の引渡しを求める国民評議会
(2011年10月4日掲載)

<急遽一部のみの改造の発表を行ったジャリル議長とジブリール暫定首相>

 リビアの国民評議会のアブドルジャリル議長とジブリール暫定首相は、2011年10月3日、共同記者会見を開き、急遽暫定内閣の一部のみを改造する人事を発表した。ジブリール暫定首相は、下述しているように、9月29日時点の記者会見では暫定政権の樹立がかなり先となると説明していた。

 アブドルジャリル議長は、この日の共同記者会見で、地中海沿いの都市シルトが制圧されれば国土が解放されたことを宣言するとした。同議長は、同時に、国土解放宣言から一ヶ月以内で新移行政権を発表することも明らかにした。さらに、「我々は如何なる新政権にも参加しないとの誓約書に署名した」(AP通信 2011年10月4日)と述べ、アブドルジャリル議長自身もジブリール暫定首相も国土解放後の新生権政権には加わらないことを明言した。

 アブドルジャリル議長は、依然カダフィ派の抵抗の続くバニ・ワリッドは内陸都市であり国境地帯に脅威を与えるものではないと述べ、バニ・ワリッドでの強固な抵抗当面が続く可能性を示唆した。同時に、現在が微妙で決定的に重要な時期であるとしてリビア国民に改めて理解を求めた。

 同日発表された改造人事では、ジブリール暫定首相が外相を兼務することとなった。これにより、それまでのアリ・イサウィ外相は完全に閣外に去ることが確認された。石油相には国営石油会社が活動を再開するまでアリ・タルフーニ氏が残留することとなった。今回の人事で目新しい点は、1)弁護士で自らも戦闘で負傷したアブデル・ラフマン・アル・ケイサフ氏の新設の戦傷担当相への就任、2)ハムザ・アブ・ファス氏の宗教相への就任(それまでは、シェイク・サーレム・アル・シェイク氏が務めていた)、3)副首相ポストの廃止、である。


<全土制圧まで先送りされると言われていた暫定政権の樹立>

 首都トリポリが陥落しカダフィ政権が事実上崩壊した2011年8月23日の時点から、リビアでは軍事的勝利の成果を文民政府に如何に円滑につなげるのかが課題となると指摘されていた。それから約6週間が経過しても、依然2都市での戦闘が続いていることや、国内各地の戦闘員で構成される反カダフィ軍が単一の司令官の指示に従う指揮命令系統になっていないことも手伝って新体制作りでの課題が改めて浮上している。

 何より頭の痛いのは、暫定政府の指導部を担う人々が、旧政権の幹部や海外亡命者、反政府活動家などの混成部隊であることだ。これに各地域の戦闘部隊がリビア内戦での勝利にどの程度貢献したのかの争いや、今後のリビアではイスラム色をどこまで出すべきかを巡る考え方の違いも加わり、暫定政権の主要ポストを巡る政治闘争がカダフィ政権の残存部隊との戦闘と並行する形で激化している。

 こうした言わば第二戦線での争いが如何に深刻化しているのかを改めて世間に示すことになったのが、マフムード・ジブリール暫定首相による首都トリポリでの9月29日の記者会見である。この記者会見でジブリール暫定首相は、次のように語り当面暫定政権が樹立されないことを明らかにしていた。

シルトとバニ・ワリッドを含むリビア全土が解放されるまで暫定政府は樹立されない。
国民評議会は、執行体制について多少の変更を伴いつつ現行のまま維持することを決定した。
リビア全土の解放は1週間で終わるかもしれないし1ヶ月を要するかもしれない。
国民評議会は給与を引き上げるべく見直しており法制化を準備しているが、新内閣の樹立は議論していない。
リビア資産160億ドルの凍結が解除されたが、同額は当面政府を維持するうえで十分な金額である。
内戦で負傷した兵士及び海外在住リビア人留学生向けの援助として4億ドルを配分した。
内戦で死亡した兵士の遺族に毎月400リビア・ディナールを、内戦に参加するために仕事を辞めた戦闘員に毎月450~500リビア・ディナールをそれぞれ支払うこととした。

 尚、ジブリール暫定首相は、同日の記者会見で自分への風当たりの強いことを考慮してのものなのか自分自身は新政権に参加しない意向を明らかにしていた。


<カダフィ大佐の三男サーディ氏の引渡しを求める国民評議会>

 国際刑事機構(ICPO)は2011年9月29日、リビアの国民評議会の要請を受けて、ニジェールに逃亡したカダフィ大佐の三男サーディ氏の国際手配を発表した。サーディ氏がリビア・サッカー協会の会長時代に資金の不正事件を引き起した疑いや、民主化を求める市民のデモに対して武力弾圧を行った疑いが国際手配の根拠とされた。

 これに対して当のサーディ氏は、2011年10月3日、不正を行ってもいなければ武力弾圧にも関与しておらず、国際刑事裁判所の要請は自分を政治的な最重要手配リストと同等に置く不当な措置であるとの趣旨を電子メールをAP通信社に電送付し反論している。サーディ氏は同メールの中で、「国際刑事機構の指名手配は、有効に機能しておらず公正な司法制度も欠いている国民評議会の権威を認めるという政治的な決定である」「自分はリビアにサッカーを広めようと努めてきたし、リビアが2013年のアフリカ・カップの開催国の一つに選出されたことを誇りに思う」「自分は関係各位にリビアの紛争の交渉による平和的な解決を呼びかけ続ける」(AP通信 2011年10月3日)と語り、容疑は事実ではないと主張している。

 サーディ氏のAP通信への電子メールは、国際犯罪の弁護士を数多く引き受けてきたニック・カウフマン弁護士経由で送られてきた。同弁護士によれば、サーディ氏の報道担当官のジャッキー・フレイジャー氏から弁護を依頼された。

 ところでニジェールのマルー・アマドウ法務相兼報道官は、2011年10月1日遅く、同国テレビで次のように語り、リビアの国民評議会は既存のニジェール・リビア協力協定に基きサーディ氏を聴取することは出来るが現時点での引渡しはないと述べた。

サーディ氏を聴取したければ、我が国が承認した国民評議会は我が国とリビアとの既存の協定の枠内で自由に我が国入りすることが出来る。
しかしながら、現時点ではサーディ氏を引き渡す可能性は全くない。理由は、最終的に適用されるのは国際的慣行だからだ。

(10月3日、記)
<関連情報>

首都トリポリの治安の維持を目的に新たに創設された「トリポリ革命評議会」(10月2日時点)【2011/10/4】

リビア入りしたフラティニ伊外相とマケイン議員を初めとする米共和党の4議員(9月30日時点)【2011/10/4】

カダフィ大佐は南部の砂漠地帯に潜伏していると見るリビアの国民評議会(9月28日時点)【2011/9/30】

リビア:カダフィ・ファミリーのその後の動静(9月27日時点)【2011/9/30】

リビア暫定内閣の成立を遅らせる「地域対立」と「相互不信」(9月26日時点)【2011/9/30】

国際的な支援は固めたものの残る3都市の制圧や暫定政府の発足が遅れ気味なリビアの国民評議会(9月20日時点)【2011/9/27】

イスラム原理主義勢力の影響力が新生リビアで拡大することへの懸念を払拭しきれない西側諸国(9月15日時点)【2011/9/20】

先陣を切ってリビアの首都トリポリを訪問したサルコジ仏大統領とキャメロン英首相(9月15日時点)【2011/9/20】

「アフガニスタン・イラクの教訓」と「自国の財政事情」から少なくとも暫定政権下のリビアの復興事業では控え目な役割に徹する米国(9月14日時点)【2011/9/16】

ニジェール軍機で首都ニアメに移動したリビアのカダフィ大佐の三男サーディ氏(9月14日時点)【2011/9/16】

首都トリポリ入りし新生リビアの国家像を明らかにしたアブドルジャリル国民評議会議長(9月13日時点)【2011/9/16】

ニジェール入りは同国に避難したカダッファ族の人道的な状況の調査と弁明するサーディ氏と政治亡命を交渉する将軍たち(9月13日時点)【2011/9/16】

(幹事 畑中美樹<はたなか よしき>)