ホスニ・ムバラク前大統領への恩赦問題
(2011年5月24日掲載)

 現在エジプトのシナイ半島の保養地シャルム・エルシェイフの病院に入院中のムバラク前大統領の処遇についての議論が戦わされている。一方ではムバラクを腐敗と権力の乱用の容疑で入院中であっても裁判にかけるべきとの声がある。他方では、ムバラクが資産を放棄して国民に謝罪し、それに対して恩赦を与えるという案が検討されているとの情報が流れた。謝罪の方法に関しては、ムバラクが国民に対して公開書簡を出すという案や、放送メディアで直接に謝罪するという案などが報道された。また最高軍事評議会が恩赦を与えるとの報道もあれば、国民投票によって決定するとの案も伝えられた。いずれも匿名の筋などの情報による報道であり、その信頼性に関しては疑問が残る。

 ムバラクへの恩赦を望んでいるのは、国内的には過去30年間に潤った層である。またアラビア半島の産油諸国も恩赦を望んでいる。たとえば4月10日にアラブ首長国連邦に本拠を置く衛星テレビ放送局のアル・アラビーヤが、ムバラクのインタビューを放送した。その中で前大統領は海外に資産を隠匿しているとの報道を否定した。アル・アラビーヤはサウジアラビア資本であり、このインタビューの放送は同国のムバラクの処遇に関する意向の反映だと解釈されている。サウジアラビアは、体制崩壊までムバラクを支持していたが、崩壊後もムバラクを見捨てることなく、その恩赦を求めているわけだ。

こうした未確認情報は、現在エジプトを支配する最高軍事評議会が、世論とくに若い世代の反応を探るための観測気球として流したとの見方がエジプトでは広がっている。

 若い世代は、この噂に強く反発し、もう一度タフリール広場への大規模なデモを組織する姿勢を示した。最高軍事評議会は、恩赦が不人気であると察知して直ぐに否定の声明を出した。5月19日付けの政府系の新聞『アル・アフラーム』が、この恩赦の噂を強く否定する声明を一面トップで報じているのを始め、『アル・アフバール』、「アル・ゴムフーリーヤ」、『ミスル・ルヤウム」の各紙が、いずれも否定声明を大きく扱っている。

 ムバラクの裁判と処罰を訴えるエジプト民衆と、恩赦を求めるサウジアラビアなどのアラビア半島の産油諸国、そしてムバラク政権の上層部にいた人たちからの圧力の間で、最高軍事評議会は難しい判断を迫られている。

 エジプト軍はムバラク政権崩壊の最終段階でデモ隊への発砲を拒否して民衆の信頼を得た。しかし、最高軍事評議会のメンバーは、いずれも前大統領に長年にわたって仕えた将軍たちであり、ムバラク政権下で潤った層である。この人たちが本当にムバラクを裁けるのか、エジプト国民が見つめている。

(5月20日、記)
<関連情報>

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注:関連情報はJAMEEF編集部が付記した。

(国際政治学者 高橋和夫<たかはし かずお>)
http://ameblo.jp/t-kazuo/