在京イラク大使とヨルダン大使が都内で講演
(2011年3月11日掲載)

 2011年3月7日に日本国際問題研究所で在京のイラク大使のルクマン・フェーリ氏とヨルダン大使のディマイ・ズへイル・ハダッド氏が『アラブ諸国の現実と展望』というタイトルで講演を行った。

 まず主催者の日本国際問題研究所側から講演会の背景の説明があった。それは現在の中東情勢に関する日本における理解が不十分であり、基本的な事実さえ踏まえていない報道が新聞やテレビで見受けられるという状況である。こうした事態を憂慮したフェーリ大使からの申し出を受けて同研究所が講演会を企画した。

 そしてイラク大使が、パワーポイントを駆使してアラブ諸国の社会、経済、政治に関するデータを提供して議論を進めた。アラブ各国の人口、人口増加率、人口構成、平均年齢、識字率、社会の透明性、政治制度、独立の年と旧宗主国、エスニックな多様性、民主化のレベル、国内総生産、一人当たり国内総生産、経済成長率など、次々とデータが提示され、事実に語らせる手法の講演であった。さすがに、大学で数学とコンピューター・サイエンスを学んだという異色の外交官らしいプレゼンテーションであった。

 要旨は、アラブ世界で進行している市民の抗議活動の背景は複雑であり、民主化は重要な要求ではあるが、唯一の問題ではない。また唯一の解決でもない。たとえばイラクの場合は選挙の結果として議会があり、政府がある。しかし、国民を守り、生活を安定させる仕事は、依然として存在する。民主化は全ての問題の解決策ではない。イラクの民衆のデモは民主化ではなく、行政サービスの改善や腐敗の一掃を求めている。つまり統治の能率の改善を求めている。

 フェーリ大使の講演で注目されたのは、水問題への言及である。同大使によれば人口増加率からして2050年までにアラブ諸国の人口は倍増するであろう。そして、その際の最大の問題が水の供給である。全てのアラブ国家に関連する問題である。

 また質問に答えて、アラブ世界全体での、特にイラクにおける日本に対する尊敬と賞賛の感情に言及した。だが同時に同大使が指摘したのは、日本企業のリスク回避への強い性向である。これがイラクの治安は日々回復しているにもかかわらず、日本企業のイラク・ビジネスへの参入を遅らせていると付言した。最後に日本の参入しない空白を韓国や中国企業が果敢に埋める形でイラク進出を果たしていると警告した。

 ヨルダン大使は、現在のアラブ世界における失業問題や貧困問題の深刻さに言及した。ヨルダンにおける市民のデモに関しては、その要求が王制下の改革であり、王制の廃止ではない点を強調した。

 両大使の見解を直接に聞く貴重な機会であった。だがマスコミ関係者の姿が、目立たなかった。いたとしても、少なくともジャーナリストが質問をする場面は目撃しなかった。マスコミ側が興味を示さなかったのであろうか。あるいはマスコミへの働きかけが十分ではなかったのか。そもそも日本における中東報道が不十分であるという問題意識が、この講演会を開かせたのであれば、いずれにしろ残念な結果であった。

(3月8日、記)
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注:関連情報はJAMEEF編集部が付記した。

(国際政治学者 高橋和夫<たかはし かずお>)
http://ameblo.jp/t-kazuo