リビアの軍と秘密警察
(2011年3月1日掲載)

 カダフィの支配地域が狭まっている。しかしカダフィの一族は、首都トリポリで最後まで戦う姿勢を見せている。軍などの暴力装置の動向に注目が集まっている。そもそもリビア軍は、そして秘密警察は、どのような構成になっていたのであろうか。

 政権の安全を守るために、カダフィの息子などが指揮する複数の私兵的な組織が競合するように配置されている。したがって、強力な一元的な組織の軍は存在しない。それが現在の状況を複雑にしている背景となっている。さらにカダフィの去った後も混沌とした状況が予想される。それは、エジプトの場合のように軍が国家の統一と安定を維持する役割を担うのは期待できないからである。以下は詳細である。

軍事クーデターで政権を奪取したカダフィは、その再発を恐れ軍隊が強力になるのを押さえてきた。リビア正規軍は4万人程度で装備は劣悪であり、訓練は十分ではない。

反政府勢力の組織化を阻止するために、軍でも官僚組織でも頻繁な人事異動が行われている。これが、統治の非能率化につながっている。

代わりに秘密警察がカダフィを支える上で大きな役割を果たしてきた。当初はエジプトの援助を受けて設立された恐らく7つの組織が、内外での諜報活動に従事しており、相互に監視し合っている。複数の諜報機関に競わせるのは、中東の独裁者の通常のやり方である。

その一つを指揮し対外諜報を担当しているのは、カダフィの義理の兄弟のアブドラ・セヌシーとされる。

また「特別旅団」と呼ばれる準軍事的組織や部族そして傭兵が重要な役割を果たしてきた。

特別旅団は正規軍ではなく革命委員会の指揮下にある。

革命委員会を率いるのは、カダフィの息子のハンニバルである。

別の息子のハミースも特別旅団の一部を指揮している。

リビアの南部に接するチャドとニジェールで傭兵を募集してきた。またマリからのリビアへの出稼ぎも多い。人口6百万のリビアで50万のサハラ以南のアフリカ出身の人々が、生活している。その一部が傭兵と見られている。なおチャド政府は、こうした事実を否定、この種の報道がリビアに居住する自国民の安全を脅かすと非難している。

反カダフィ運動が燃えあがった後も、ギニアやナイジェリアでは日当2千ドルで傭兵を募っているとの報道もある。また5千名のケニヤ人が傭兵として戦っているとされる。

リビア社会の構成要素の一つは部族である。専門家によればリビアには140前後の部族が存在する。カダフィ自身も西部のカザフィーア部族の出身である。空軍には、この部族の出身者が多い。また多くが政権の主要なポストやカダフィの警護の職についてきた。暗殺を避けるために、カダフィの生活のパターンや予定は公表されず、また直前に変更される。移動の際には多数の装甲車両が動員される。

ボディガードは、イエニチェリに習い子供時代からカダフィに仕え強い忠誠心を植えつけられているとされる。イエニチェリとは、かつてリビアを支配したオスマン帝国の制度で、「新しい兵士」を意味している。幼年時代からスルタンの奴隷部隊として訓練された直属の精鋭部隊であった。

人口150万の最大部族である西部のワルファラ部族が反旗を翻(ひるがえ)したのは、カダフィ政権への打撃であった。

リビア南部にはアラブ系でない50万のトアレグ・ベルベルが生活している。この部族の支持が、チャドやニジェールからの傭兵の流れを確保する上でカダフィにとって重要である。

(2月28日、記)
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注:関連情報は編集部が付記した。

(国際政治学者 高橋和夫<たかはし かずお>)
http://ameblo.jp/t-kazuo