完成間近い26年を費やした化石水を利用した人口河川によるリビア大規模灌漑事業
(2010年9月28日掲載)

 中東・北アフリカでは、砂漠を耕作地に変える努力が続けられているが、飲料水問題の影に隠れてしまっている。そのなかでリビアは、化石水の利用で砂漠を耕作地に変える大灌漑プロジェクトを進めてきた。現在、地勢を変える程の勢いで緑化が実現している。河川、湖もない年間平均降雨量さえ254ミリしかない国の砂漠大地の真只中に、緑豊かな果樹園が延々と広がっている。そこではぶどう、アーモンド、洋梨が開花し果実をつけている。カダフィ大佐が野心的に進めてきた大灌漑事業の成果である。

 カダフィ大佐は、リビアからエジプト、チャド、スーダンに連なる巨大な地下化石水脈を飲料水と灌漑用に汲み揚げ、配水する巨大人口河川を建設する野心的なプロジェクトを進めてきた。その大事業が、ようやく完成間近に迫っている。プロジェクトには26年を費やした。総事業費は195億8,000万ドルと言われる。政府はこの灌漑プロジェクトによって砂漠で16万ヘクタールの農地開発を計画している。

 化石水とは、氷河期時代の氷解水がヌビアン砂漠の多孔質層に残存して地下水として滞留したものである。石油探査掘削と同時に発見できる。政府の資料によると、リビア国内には地下600メートルの地点に淡水貯水層が4箇所あり、水量は約1万~1万2,000立方キロに達する。現在の需要で計算すると、化石水の埋蔵量は4,625年分に達するという。リビア以外でも地下水の汲み上げを行っているが、大々的に行っているのはリビアのみである。

 リビア南部の4箇所の地下の帯水層からプリストレス・コンクリート・パイプで地上の5箇所の貯水池にくみ上げる。現在、1日の汲み上げ量は250万立方メートルだが、最終的には650万立方メートルに引き上げる計画である。貯水池からは、総延長2,333マイルのパイプライン網で北部の人口集中地域へ配水する。配水路のところどころに水の取り口となる井戸が設けられ、農業灌漑に利用できるようになっている。このようにして巨大な人口河川がリビアの広大な砂漠の農場を灌漑している。世界最大規模の灌漑設備といわれる。

 リビア政府は、水を無駄にしないために新しい細流灌漑技術を採用している。配水量の70%以上が補助金の交付される農業分野で利用され、残りが飲料水に向けられる。工業用水としては利用されないという。政府は農業向け配水に多額の補助を行っている。農民の負担は1立方メートルにつき62セントに過ぎず、一般市民が支払う金額のほぼ半分となっている。

 リビアにとっては、化石水の汲み揚げの方が、脱塩による造水や水の輸入より安価なのだが化石水で大規模灌漑を行うことを疑問視する専門家もいないわけではない。例えば、オレゴン州立大学の地質学のアーロン・ウオルフ教授は、次のように主張する。

脱塩による造水ほどコストはかからないが、灌漑に使うとなるとコスト効率が悪い。
もし農夫が汲み揚げと輸送コストを全額負担しなければならないとすると、農業生産で収支が合わないだろう。
だから他の国では利用しない。

 また、カナダのビクトリア大学の地理が専門のスティーブン・ロングホム教授も、次のように見ている。

このプロジェクトの欠陥は、資源が枯渇したら、よりコストのかかる脱塩による造水或いは水の輸入に頼らざるを得なくなることである。
短期的には成功だが、最終的には将来脆弱な国家にしてしまう。

(9月25日、記)
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(中東問題研究家 江添 久義<えそい ひさよし>)