イラン宗教界の反政府の動きを示唆する最高指導者ハメネイ師による聖都コムへの長期訪問
(2010年10月26日掲載)

 イランの最高指導者ハメネイ師が約10日間の予定で聖都コムを訪問している。だが、この訪問はイランの宗教界の中にも現政権の諸政策に不満を抱く者が少なからずおり、政府当局も彼らの取り扱いに苦慮している実態をはからずも明らかにしたようだ。ハメネイ最高指導者は、2009年6月の大統領選挙の直後から再選されたアハマディネジャド大統領の支持を打ち出し、不正があったのではとの主張を退けてきた。しかし、聖都コムの高僧の多くは当時からアハマディネジャド大統領を支持せず、その後も政府批判の姿勢を強めている。

 カタールにあるブルッキングス・ドーハ・センターのシャディ・ハミード地域担当調査員は「2009年の大統領選挙後の弾圧以降、ハメネイ最高指導者と何人かの高僧との関係が悪いことは秘密でも何でもない」「きれは決して些細な問題ではなく、体制の結束にとって根本的な問題である」(ガルフ・イン・ザ・メディア、GRC、2010年10月21日)と解説する。

 最高指導者ハメネイ師はコム訪問で自らのメッセージを伝え、統治制度や強硬戦術に異を唱える聖職者達と対峙しようとしている。しかし、こうした行動はリスクを伴うものである。コムからの批判の封じ込めに失敗すれば、最高指導者としてのハメネイ師及び同師を取り巻く人々の権威を傷つけることになるからである。そうでなくともハメネイ師と側近たちは、政権上層部の聖職者が握ってきた外交分野に進出しようとするアハマディネジャド大統領の動きに頭を悩ませているのにである。しかも、そのアハマディネジャド大統領は、国家の中の国家と言った存在になりつつある革命防衛隊との関係を益々深化しており、政権内の有力聖職者も危惧し始めているところである。

 ハメネイ最高指導者はテレビ中継されたコムでの演説で「団結の強化が日々、必要とされている。特に、肩に多くの責任を背負う行政府との団結が必要である」(同上)と語り、アハマディネジャド大統領及び同大統領を支える革命防衛隊に呼びかけた。アハマディネジャド大統領の政策の中でも、最近は経済政策への風当たりが強まっている。2010年9月にも、ナーセル・マカッレム・シラジー大アヤトラが、大統領は経済状況について嘘をついていると述べ厳しく批判している。ナーセル・マカッレム・シラジー大アヤトラは「インフレ率が低下しつつあるとの統計が常に出されている。しかし、これは、国民の目にすることとは矛盾している」「政府統計が現実と合致しない時、国民の政府への信頼は失われる」(同上)と語り、庶民のインフレ感と統計データの間には余りにも乖離があることを指摘している。

 こうしたコムの高僧とハメネイ最高指導者の軋轢をさらに悪くしかねないのが、ハメネイ師が後継者として子息のムジュタベ師を推そうとしているとの見方である。一部のイラン・ウォッチャーは、ハメネイ師が今回のコム訪問をその機会として利用しようとしていると分析している。

(10月24日、記)
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(幹事 畑中 美樹<はたなか よしき>)