中国の姿勢が鍵となりつつある国連安全保障理事会での新たな対イラン経済制裁の採択
(2010年3月23日掲載)

 米国が起草した国連安全保障理事会での新たな対イラン経済制裁案の成否は、現時点では依然外交での話し合いによる解決を主張する中国の姿勢が鍵となりつつある。以下では、新たな対イラン経済制裁案を巡る現状を見た上で、2010年3月7日~3月20日にかけての大きな動きを一覧表で整理することとしたい。

 米英仏独は過去数週間に亘り、新たな対イラン経済制裁案の内容について意見交換してきた。他方、イランとの各種取引を持つロシアと中国は、懲罰的な内容の対イラン制裁には消極姿勢を示してきた。但し、西側外交筋によれば、ロシアはイランの交渉姿勢に痺れを切らし始めており、イランのエネルギー部門を直接対象としない制裁案であれば支持する方向にあるようだ。

 現時点では新制裁案には次のような諸点が盛り込まれることになりそうだ。

イラン金融機関の新たな海外での設置の制限(恐らく禁止)。
イラン中央銀行と関連のある取引の監視。但し、欧米の求めていた公式なブラックリスト化は避ける模様。
イランに出入りする船舶向けの保険・再保険の制限。
イランの個人・企業向けの旅行禁止及び資産凍結リストの追加。特に、イラン革命防衛隊隊員及びイラン革命防衛隊管理企業の職員に焦点。
イラン・イスラム共和国イラン船舶社を含む船舶企業数社のブラックリストへの掲載。
北朝鮮の事例と同様の対イラン全面武器取引の禁止(検証方法付)。

 中国はさらなるイランとの対話を求めており、今はまだ制裁の時期ではないと主張している。しかしながら、西側外交筋は、ロシアが新制裁案を支持すれば中国は拒否権を発動しないと見る。中国にとってイランは大切なエネルギー供給国だが、米国との関係は極めて重要である。西側外交筋は国連安保理の投票に新制裁がかけられれば、ロシアを含む10から11カ国が賛成すると見る。中国については賛成に回ると見る者もいれば、棄権するとの見方もある。

 ブラジル、トルコ、レバノンの3カ国も現時点では新制裁案に賛成できないと言っているものの、仮に中国が賛成に廻ればブラジルとトルコは賛成すると見られている。その場合でもレバノンは棄権しそうだ。西側外交筋は、新制裁案に関して国連安保理にドイツを加えた6カ国での合意が2010年3月中に得られ、2010年4月中に国連安保理で採択されることを望んでいた。しかし、今ではこれは難しく、早くても承認は6月になるとの見方に傾きつつあるようだ。また、仮に国連安保理で承認の見込みが立たない場合には、米国、EU及び同盟国での個々の対イラン経済制裁ということになろう。

    表 イラン制裁を巡る最近の動き(2010年3月7日~20日)

月 日 イ  ラ  ン 国  際  社  会
3月07日
新型巡航ミサイル「ナスル(勝利)1」の生産開始を発表した。
  
09日
湾岸で開発した国産駆逐艦から艦対艦ミサイルを試射した。
  
11日
バヒディ国防長官が、「防空体制の強化のために、新型地対空ミサイルの生産を開始した」と発表した。
アブダビ訪問中のゲーツ米国防長官が、訪問したサウジアラビアとUAEの両国がイラン制裁に消極的な中国の説得に前向き姿勢を示唆したと発言した。
13日
アラグチ駐日・イラン大使が、近々、モッタキ外相が来日すると語った(日本は2010年4月の国連安保理議長国)。
  
14日   
クシュネル仏外相がEU外相会合で、国連安保理がイラン追加制裁合意に失敗すればEUが単独制裁を課す可能性を示唆した。
米ワシントンポスト紙が、パキスタンのカーン博士が2004年のパキスタンでの取調べ中に、イランが1980年代に100億ドルで核兵器の購入を試みたと証言と報じた。(ベグ・パキスタン元陸軍参謀総長が軍事予算への支援と引き換えに対イラン核兵器売却を確約→イランが100億ドルの支援を提示→シャムハニ・イラン元国防軍需相が核兵器3発の購入のためにパキスタン訪問→パキスタン政府内で売却消極論が台頭→代わりに、核爆弾開発関連図面及びウラン濃縮遠心分離機部品を引き渡す)。
16日   
楊・中国外相が、訪中のミリバンド・英国外相と会談し、「関係国の交渉による平和的解決努力を望む」と述べた。
秦剛・中国外務省報道官が、定例会見で、「関係各国が建設的に努力し、対話・交渉により平和的に解決することを望む」と語る。
スペクター・モントレー国際問題研究所不拡散センター・副所長が、インターネット上で、「北朝鮮がシリア、トルコの介在で、濃縮ウランの原料となるウラン精鉱45トンを送ったのは深刻な懸念材料」と指摘した。
英国のジェーンズ・インテリジェンス・レビューを持つIHSジェーンズ社が、イランが2010年2月3日に公開した新型空中発射ロケット「シーモルグ(不死鳥)」は北朝鮮の技術支援での開発可能性が高いと指摘した。
17日
サレヒ副大統領兼原子力庁長官が、「見返りの研究用原子炉燃料との同時交換であれば、低濃縮ウラン1.2トンをIAEA提案通りに国外輸送する用意がある」と語った。尚、現時点でのイランの低濃縮ウランは2トンに増えている。
オバマ米大統領が、FOXニュースとのインタビューで、「積極的な制裁を目指す」「あらゆる選択肢を排除しない」と述べた。
18日   
クシュネル仏外相が、都内の記者会見で、「過去のイラン協議からは何も生まれなかった」「対話と制裁準備の同時並行は驚きに値しない」と語った。
秦剛・中国外務省報道官が、定例会見で、「中国はイラン問題に注目している」「中国は、対話・交渉・外交ルートによる平和的な解決方法を求める」と語った。
クリントン米国務長官が、モスクワでのラブロフ露外相との会談後の共同記者会見で、「イランのブシェール原発を2010年夏に稼動させるのは時期尚早」と語り、ロシアの建設支援を牽制した。
19日   
クリントン米国務長官が、モスクワでのプーチン首相との会談で、「中国の姿勢に変化が見られる」と語った。
プーチン露首相はモスクワでのクリントン米国務長官との会談で、「国連安保理でのイラン制裁の採択の可能性はある」「但し、制裁が逆効果となる場合もある」と述べた。
メドベージェフ露大統領がモスクワ郊外でのクリントン米国務長官との会談で、「制裁が機能するのは稀だが避けられないこともある」「そのような状況がイランに起きる可能性を排除しない」と述べた。
他方、クリントン米国務長官は、「外交交渉は長く行ってきた」「次の段階に進み制裁を作成する必要がある」と語った。
20日   
オバマ米大統領が、イラン新年のノウルーズを祝うビデオメッセージで、「イランが孤立を選択した」と批判する一方。「対話を求める」との考えも表明した。
出所:各種報道より作成のもの。

(3月21日、記)
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(幹事 畑中 美樹<はたなか よしき>)