石油輸出収入増による経常収支と財政収支の黒字を背景に膨らむGCC諸国の海外運用資産残高
(2010年7月23日掲載)

 米国の首都ワシントンに本部を置く国際金融協会(IIF)は、GCC6カ国が、2002年から2008年の石油ブーム時代に海外に蓄積した巨額の資産により2008年の金融危機の影響を封じこめる、不況から逸早く回復することが出来たと分析する。これら6カ国は、2002年から2008年の期間に石油輸出収入の急増による経常収支及び財政収支の黒字の拡大から海外資産を著しく拡大していた。IIFは、GCC6カ国の総海外資産は2002年以降3倍に増加し2009年末時点で約1兆4700億ドルに、また総資産から債務を差し引いた純資産も約1兆490億ドルに増加したと推定している。

 米国のニューヨークにある世界的なシンクタンクの外交問題評議会(CFR)は、2008年の金融危機でGCCの政府系ファンドは約3500億ドルの損を被ったものの、他方で、同年の1バレル当たり95ドルを超える石油価格の高騰が2730億ドルの資金流入をもたらしたので、損失を部分的に相殺したと分析している。

 IIFは、2011年の平均石油価格を1バレル当たり80ドルと予想する。IIFは、これに増産分が加わるので石油収入はさらに伸びると見る。その結果、2009年には一時的に悪化したGCC6各国の経常収支も、今後2年間で急回復が見込めるとしている。具体的には、①石油・ガス輸出収入が、2009年の3230億ドルから2010年には4190億ドルに、さらに2011年には4570億ドルに増加する、②これにより、経常収支の黒字幅は、史上最高を記録した2008年の2580億ドルには及ばないものの、2009年の474億ドルから2010年には1,242億ドルに、2011年には1,572億ドルに急回復する、と予測する。一方、歳出増にもかかわらず、政府の財政黒字も2009年のGDP比3%が2010年~2011年には10%に上昇すると予測する。従って、結果的に海外資産を積み上げる環境が整うと同時に、引き続き海外資産が政府の健全な財政支出を支えることになると分析する。

 GCC6各国の海外資産の半分以上は、アブダビ投資庁(ADIA)、クウェイト投資庁(KIA)、カタール投資庁(QIA)などのいわゆる政府系ファンド(SWF:Sovereign Wealth Fund)が運用・管理している。米国の政府系ファンド研究所(SWF Institute)の推定では、2009年末時点の各政府系ファンドの海外資産残高は、アブダビ投資庁(ADIA)6,270億ドル、クウェイト投資庁(KIA)2280億ドル、カタール投資庁(QIA)650億ドル、サウジアラビア通貨庁(SAMA)4310億ドルとなっている。尚、アブダビ投資庁(ADIA)の資産残高については、IIFと外交問題評議会(CFR)は、上記より少な目に見積もっている。因みに、IIFは3900億ドル、CFRは2008年末で3280億ドルと推計している。

 IIFは、巨額の海外資産を保有するGCC諸国には3つリスクがあると指摘する。第一は、世界経済が予想を下回る回復となった時の石油価格下落リスクであり、第二は、ユーロ市場における国債の流動性と不履行の懸念が国家の債務危機へと拡大するリスクである。そして、第三は、引き続き弱い民間部門の経営環境及び、これら民間部門に課される厳しい借り入れ条件が企業の経営危機を招来し湾岸地域の銀行に飛び火するリスクである。この第三のリスクについては、融資の急激な落込みが地域の銀行の総じて高い収益性に隠された形となっている不良債権を露呈させるかもしれないと見ている。

(7月21日、記)
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(中東問題研究家 江添 久義<えそい ひさよし>)