謎に包まれる失踪中とされてきたイラン人科学者の米国からの突然の帰国
(2010年7月20日掲載)

 2009年6月にサウジアラビアに巡礼に行って以降、行方不明になっていたイラン人科学者シャハラム・アミリ氏(32歳)の突然の帰国騒動が関心を集めている。周知のように、マレク・アシュタル大学の研究者であるシャハラム・アミリ氏は2010年7月12日、首都ワシントンのパキスタン大使館にあるイラン利益代表部を訪れ自国への出国を求めたため保護された。同氏は三日後の2010年7月15日未明、首都テヘランのイマム・ホメイニ空港に到着した。同氏は到着後の記者会見で凡そ次のように発言した。

自分は核の研究は一切していない。
自分は誰にも開かれ、何ら秘密の作業など行われていない大学の単なる研究者に過ぎない。
自分は巡礼に行ったサウジアラビアのメディナで、スーツを着たペルシャ語を話す人物に声をかけられた。
モスク(寺院)まで彼の車に乗ることを勧められたので乗ったところ、先客の一人が銃を取り出し静かにするよう告げられた。
そこで注射をされ気を失い、気づいた時には大きな飛行機、恐らく軍用機に目隠しをされ乗せられていた。
拘束されてからの当初の2ヶ月間、精神的にも肉体的に最も厳しい拷問を受けた。
自分の誘拐はイランに対する心理戦であり、他国に対して米国が信じさせようとするイランに関する虚偽の内容を示すものである。
幾つかの点については微妙な問題で国益を害しかねないものなので、何れ時の経過と共に説明したい。
ヒラリー・クリントン米国務長官が、自分が自由に米国にやってきたのであり出入国も自由であると話したことには驚いた。自分は自由ではなく、諜報機関の武装した人たちの監視下にあったのだから。
(一部で巨額の資金が提供されたとの報道に関して)米政府高官達は、自分が考えを変え、米国永住を決めるならば、5000万ドルを提供すると提案してきた。
彼らは、イランから自分の家族も連れ出すと言ってきた。自分が交差臆されている間に家族に対する威嚇があった。

 因みに、米国のヒラリー・クリントン米国務長官は2010年7月13日、シャハラム・アミリ氏が自らの意思で米国に滞在していたと述べていた。また、米国のワシントン・ポスト紙(2010年7月14日付け)は、米中央情報局(CIA)がシャハラム・アミリ氏に500万ドル以上を支払っているものの、同氏が帰国したことで口座からの引き出しは出来なくなったと報じていた。

 尚、シャハラム・アミリ氏は、イラン帰国直前に記者団に、5000万ドルと欧州の望む国での生活という申し出を受けたことを明らかにしていた。もっとも同氏は、仮に米諜報機関の武装者たちの監視下にあったのであれば、どのようにしてビデオ・メッセージを送ることができたのか、或いは最終的に拘束から逃れてワシントンのパキスタン大使館に助けを求めることが出来たのかについては答えていない。因みに、同氏はビデオ・メッセージでメディナへの巡礼中に米国とサウジアラビアの工作員に誘拐されたと述べていた。

 シャハラム・アミリ氏とされる人物は、2010年6月29日にイラン・テレビで放映されたビデオで次のように述べている。

自分はバージニアの米政府諜報機関の手から逃がれるのに成功した。
自分はいつ米諜報機関に再逮捕されるかもしれない・・・自分は自由でなく、家族と接触するのを許されていない。仮に何かが起き、生きて帰らない場合、米政府に責任がある。
自分はイラン政府高官及び機構に対して、自分の釈放と帰国のために米政府に圧力をかけてもらいたい。

 ところで米政府高官達は、シャハラム・アミリ氏が記者会見で度々口にする「自分の意思に反して米国に連れてこられた」との主張を否定する。米政府高官達はシャハラム・アミリ氏が亡命者であると主張し、「不可欠な情報の提供に対しては500万ドルという包括的恩典は普通の基準である」と説明している(NYT紙 2010年7月16日)。但し、イラン政府は7月第二週、シャハラム・アミリ氏が米諜報機関に誘拐されたとの証拠をスイス大使館に提出したとしている。

 何故シャハラム・アミリ氏が突然帰国したのかと問われた米政府高官は、匿名を条件に、「アミリ氏は帰国せねばならないとの圧力を感じていたのかもしれない」「イランは時として家族を使って影響力の行使を図る」「それが彼の矛盾するメッセージに対する一つの説明となろう」(ガルフ・ニューズ紙 2010年7月14日)と述べ、イラン当局が家族を使って同氏に圧力をかけた可能性を指摘する。

 他方、イランのモッタキ外相は「まず我々は過去2年間に何が起きたのかを見極め、その上で、シャハラム・アミリ氏が英雄か否かを決めることになろう」「イランは、自分は誘拐されたとのシャハラム・アミリ氏の主張が正しいか否かを決めねばならない」(NYT紙 2010年7月16日)と述べ、イラン政府として慎重に対応することを示唆した。

 専門家たちは一様に、シャハラム・アミリ氏は米国治安当局に情報を話し今や二重スパイになっているとの疑いをイラン政府からかけられるだろうと見る。結局シャハラム・アミリ氏が安全にイランで暮らせるかどうかは、米国では圧力と拷問下にあったとの話がどこまで信じてもらえるかにかかっていよう。米政府高官達も「シャハラム・アミリ氏にとって課題は、米国に協力していなかったことをイラン治安当局に確信させうるか否かにかかっている」「それは高い壁である。シャハラム・アミリ氏はそれに賭けている」(NYT紙 2010年7月16日)と語り、同氏にとって今後が決して楽観を許すものではないことを示唆している。

(7月16日、記)
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(幹事 畑中 美樹<はたなか よしき>)