裁判管轄地の適正が問われることになったゴサイビ一族のサネア氏に対するNYでの訴訟
(2010年8月24日掲載)

 サウジアラビアのアフマド・ハマド・アル・ゴサイビ・アンド・ブラザーズ(AHAB)を率いるゴサイビ一族と同一族に婿入りしたサード・グループを率いるマーン・アル・サニア氏との間の係争は、ゴサイビ一族が、サネア氏による巨額の資金詐取によって一族が経営するAHABが破綻したと告訴したことから始まった。その後、係争は両家による詐欺、横領をめぐる骨肉の争いに発展し、サウジアラビア政府が両家の国内銀行口座の凍結に乗り出す事態にまで至った。

 加えて融資を行ったサウジ国内外の銀行が債権回収に動きだしたこともあって、目下、ニューヨーク、ロンドン、ケイマン諸島などサウジ国内外での三つ巴の訴訟合戦となっている。今般、債権銀行が起こした訴訟で、ニューヨークにおいては裁判管轄地の妥当性を指摘する判決が下ったことで、ゴサイビ一側がアメリカで起こしている訴訟についても雲行きが怪しくなっている。

 UAEのマシュレクバンクがAHABに対して起した債権回収を求める訴訟で、ニューヨーク最高裁のリチャード・B・ロウ3世判事は、本件はニューヨークではなく同様の訴訟が起されているUAEで審問すべきであるとの判決を下したのである。判事は同時に本件に関係してAHABがアル・サニア氏側に起した訴えについても、サウジアラビアが然るべき裁判管轄地であるとの考えを示した。

 マシュレクバンクが起した訴訟はAHABが不履行を起した2009年5月の2億2,500万ドルの為替取引ついてのものである。AHAB側は、本件はアル・サニア氏が行った取引だとして、逆にアル・サニア氏と同氏のサード・トレイディング社を訴えていた。アメリカでの判決に先立って、AHABがケイマン諸島でアル・サニア氏に対して起した訴訟でも同様の判決が下されている。ケイマン裁判所も、アル・サニア氏が否定している詐欺、偽造、横領の容疑の核心部分はサウジアラビアの裁判管轄権で審問すべきと申し渡した。つまり、関係者及び証人の多くが中東地域に在住しているのであるから、中東の裁判所で審問するのが合理的であるというのが両判決の判断である。

 AHAB側の弁護団は、アル・サニア氏とサード・トレイディング社に対する審問はアメリカの裁判管轄権外にある被告をアメリカの裁判所で審問する制度(long-arm jurisdiction)上、適正手続きであるとし、アル・サニア氏とサード・トレイディング社の為替取引はニューヨーク所在の銀行との間で行われたもので当地の裁判管轄権で裁かれて然るべきであると主張していた。

 判決後、AHABの弁護団長であるエリック・ルイス弁護士は「ニューヨークを裁判管轄地に選んだのはマシュレクバンク側だ」(ナショナル紙 2010年7月29日)と述べるとともに、「判決は法律及び制度上誤っている」(同上)との声明を発表した。また、同弁護士は「判決でアメリカの金融システムの管理上の問題点が明らかになった「非居住者が海外から指示して行ったニューヨークの銀行を舞台にした大掛かりな金融詐欺事件は調査をすり抜けられる」(同上)とも指摘している。ルイス弁護士は、今後の対応についてAHAB側には十分な根拠があるとして「我々はアメリカの銀行システムが1億6,000万ドルの詐欺事件に加担したとして引続き司法当局と交渉を続ける」(同上)と語り抗告する構えを明らかにしている。

 尚、今回ニューヨーク最高裁が下した判決について、アル・サニア氏のロンドンの広報担当者は、同氏がこの判決に満足していると発表している。

(8月16日、記)
<関連情報>

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(中東問題研究家 江添 久義<えそい ひさよし>)