国連安保理も米国もEUも抜け道だらけとの見方もなされている対イラン制裁
(2010年8月24日掲載)

 2010年8月2日付けのニューヨーク・タイムズ(New York Times)紙は、ロバート・ゲーツ米国防長官が、国連安保理でロシアと中国が対イラン制裁決議案に署名した後に開かれた米議会の委員会で「ロシアの姿勢は“総合失調症的”だ」と発言したと報じた。つまり、ロシアのイランに対する行動は、「商業的関心」と3年前にプーチン首相が直接ゲーツ国防長官に話したとされる「イランはロシアの安全保障上大きな脅威であるとの認識」との葛藤の中にあるというのである。しかも、同記事はこうした姿勢は何もロシアに限った話ではないとしている。大変興味深い内容の記事であるので、以下では要旨に限って紹介することとしたい。

 フランスはイランに対して断固たる声を上げている。オバマ政権が安保理の制裁はイラン国民に危害を加えるものではないと発言した時、それでは実効性がないとして安保理の措置に石油製品の輸出も加えるべきであると強く主張した。結局、同盟国は、この強い姿勢を独自の制裁に盛り込むことになった。事実、石油産業はイランのイスラム宗教体制存続の要である。イランは自国の精製能力では国内ガソリン需要の40%しか供給できない。イランは原油を輸出しているが、ガソリンについては一部をは輸入しているのだ。このガソリン輸入を妨害、或いは止めれば、理論的にはイランが急いで進めている核兵器の保有に向けた動きを牽制できることになる。

 しかし、果たして止めることはできるのだろうか。各制裁には余りにも抜け道があるように思える。ロシアもそうだが、イランに関して何かを成し遂げようとするには、国際社会の行動に一貫性が伴っていないように見える。事実、モスクワ商工会議所は2010年7月29日、ブルームバーグ通信に対して、ロシア国営エネルギー企業のガスプロム社とロスネフチ社が、EUと米議会が採択した独自の対イラン制裁を無視するかのようにイランとガソリン引渡しの交渉をしていると話している。このニュースを追うように、ロシアとイランは石油分野で共同事業を進展・拡大するとの共同声明を発表している。

 国連安保理は、ロシアと中国との取引が成立して3日後になってイラン向け武器輸出に関してロシアの国営企業を含めて制裁対象から外してしまった。さらに米国の独自の制裁措置においても、オバマ大統領は、米国の友好国の行うイラン支援については是々非々で対応することとなっており、場合によっては制裁を免除する権利を保留している。

 現在、欧州がイランに大量のガソリンを供給している域内企業5社を営業停止にすべきと言っているのはもっともなことでる。しかし、新保守主義系シンクタンクである民主主義防衛財団(Foundation for the Defense of Democracies)のマーク・デュボウイッツ常任理事は、先週、米下院委員会で、ガソリンの禁輸をしても中国やトルコ企業が中心になって穴埋めをするだろうと証言した。そして、EUが、巨大で影響力を有する3社及び子会社に罰金を課したり、圧力を加えたりすることを望んでいないことにマキアベリ的詮索をする必要はないと述べている。さらに、同常任理事は、ドイツがイランとの取引の疑いがあるハンブルクの銀行の取り締まりに躊躇していることに関してオバマ大統領がメルケル首相に電話を入れたものの、全く無駄に終わったことも明らかにしている。

 元国務省の核不拡散問題の専門家で、現在ロンドンの国際戦略研究所でイラン問題を追い続けるフィリップ・パトリック氏は、次のような厳しい見方をしている。

仮にイランとの交渉が始まっても、これまでの原理原則の応酬で始終するだけであろう。
成果があるとすれば、イランが核爆弾を保有する可能性を制限すること及び、イランの欺瞞を見分ける能力を高めることでしかないだろう。

 また、湾岸戦争後、国連の武器調査団を率いたデイビッド・ケイ氏も自著の中で、イランが核兵器製造を放棄したと主張しても確信をもって証明することは出来ないと書いている。

(8月13日、記)
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(中東問題研究家 江添 久義<えそい ひさよし>)