原子炉への核燃料装着作業の始まったイランのブシェール原子力発電所と対イラン制裁を巡るその後の動き
(2010年8月24日掲載)

<原子炉への核燃料装着作業の始まったブシェール原子力発電所>

 2010年8月21日、イラン発の原発となるブシェール原子力発電所(加圧水型軽水炉、出力出力100万KW)で原子炉への核燃料装着作業が開始された。核燃料装着作業自体は2010年9月中に終了するが、発電開始は2010年11月から2011年初頃になる見込みである。

 元々、ブシェール原子力発電所はパハレビ国王時代の1974年にドイツのシーメンス社により始められたが1979年に発生したイラン革命で中断し、さらにイラン・イラク戦争中にはイラク軍の爆撃で施設の多くが破壊されてしまった。その後、1995年になり残存する施設の基礎を生かす形でロシアが建設契約を結び2000年代前半での完成を目指したものの米国の強硬な反対などもあって遅れていた。

 記念式典に臨んだイランのサレヒ原子力庁長官は「欧米の圧力・制裁にも関わらず平和的核利用の象徴が稼動開始となった」と述べ、原子炉への核燃料装着作業の開始を喜んだ。尚、同日にはロシア、イランは原子力発電所を運用する共同企業の設立議定書に調印した。米国は当初ブシェール原発の建設に反対していたものの、ロシアが核燃料を供給した上で使用済み核燃料も引き取り、さらに燃料が国際原子力機関(IAEA)の監視下に置かれることもあって懸念はないとの立場に転じている。但し、ギブス米大統領報道官は2010年8月13日の記者会見で、イランの核開発計画が平和目的であるならば(ブシェール原発の稼動により)独自のウラン濃縮技術は不要なことが明らかとなったと述べ、イランのウラン濃縮の目的が核兵器の開発にあるとの見方を強調している。

 国際原子力機関(IAEA)もブシェール原発の稼動が核兵器の開発につながるものではないとしながらも、ロシアが核燃料を供給するのにイランが独自にウラン濃縮を進めようとしている点を重視し今後も監視して行く姿勢を崩していない。また、イランの核開発を極度に警戒するイスラエルは、イランは国連安保理決議や国際原子力機関(IAEA)の決定、核不拡散防止条約(NPT)の義務に違反しているので、国際社会として対イラン圧力を強化し同国のウラン濃縮・原子炉建設を止めさせるべきとの声明を発表し、ブシェール原子力発電所への核燃料装着作業の開始を受け入れられないとしている。


<核交渉の無条件での開始を示唆したアハマディネジャド大統領>

 イランのアハマディネジャド大統領が2010年8月19日に読売新聞と行った単独会見で、国連安保理5カ国にドイツを加えた6カ国と2010年8月下旬か9月上旬までに核開発交渉の再開の用意があると語り注目を集めている。同大統領は同紙との会見で、概要次のように述べた。

(核交渉再開の前提とした3条件について)米欧がどのように諸条件に応じるかは交渉再開を妨げるものではない。
(濃縮率20%のウラン濃縮は)供給が保証されれば状況は変わる。
(日本には)関係拡大を望んでいる。深刻な問題は生じないであろう。

 但し、イランのハメネイ最高指導者は2010年8月18日、国営テレビで演説し、「制裁と軍事的脅威が除去されない限りイランは米国と話し合いを行わない」「(仮に米国がイランを攻撃すれば)イランの反撃は中東に留まることなく広範囲に及ぼう」と述べ、米国を牽制している。

 日本との関係では、トヨタ自動車が2010年8月11日、対イラン輸出を継続した場合には重要市場である米国での事業に影響が出かねないとの判断からイラン向け自動車輸出を2010年6月から停止していることを明らかにした。同社はイランに対して四輪駆動車のランドクルーザーを軸に、2007年3500台、2008年4000台を出荷してきたものの、2009年は僅か246台に急減し、2010年も1~5月実績は222台に留まっていた。同社は今後も国際情勢を注視するので対イラン輸出の再開時期は未定としている。


<制裁順守を求め中東主要国を歴訪した米政府高官>

 スチュアート・レビ米財務省次官(テロ・金融情報担当)は2010年8月15日、滞在中のアブダビで、歴訪の目的について次のように語った。

今週、UAE、バハレーン、レバノン政府と国連安保理による対イラン制裁について協議する。
また米国独自の対イラン制裁についても、これら諸国の理解を得られるよう説明する。
さらに、EU、カナダ、豪州が課した独自制裁との関連も絡めて国連制裁により各国が順守すべき義務を明確にしたい。
こうした協議は中東諸国だけと行っているのではなく、オバマ政権の別の高官がブラジル、エクアドル、日本、韓国、トルコも歴訪している。
我々は出来る限り早期にどこにでも行く。何故ならば、重要なのは制裁を世界レベルで実施することだからだ。
UAEはイランの行う活動により名声を汚すリスクを負ってきた。イランは孤立を深めているので各国は同国の違法行為を厳格に取り締まらねばならない。UAEでは、この点を議論する。
米国はUAEとイランが歴史的に良好な貿易関係を持ち、また両国が親密な関係にあるという特異な立場にあるのを理解している。
米国はUAEやその他諸国と、リスクを見極めるべく別の形の対話を継続する。
イランは石油・ガス産業への投資不足、多くの若者の雇用不足という経済的困難に直面している。

 他方、ユーセフ・アル・オタイバ駐米・UAE大使は、米政府の説得に対して次のように述べている。

我が国は国連制裁を明確に順守している。既に閉鎖となった企業もある。
我が国とイランの間には巨額な貿易がある。しかし、それらが全て違法・不法というわけではない。
我が国が行おうとしているのは、合法的な取引が制裁により害されないようにすることである。
UAEはこれを既に実施されている諜報協力、法律の遵守、輸出管理により行うことが出来る。
3セットの制裁(国連、米国、EU)があるが、UAEはそれらがどのように関連しているのかを見極めようとしている。
制裁の効果を言うのは早いが、その背後にある考え方は外交が機能し易くすることである。
国際社会は以前に比べてまとまっており、一貫性を有している。

 さらに、アンワル・ガルガーシュUAE国務相(外務担当)も次のように述べている。

UAE政府は最善策について協議している。
UAEは国連制裁を決定する国際社会の一員であり、こうしたことを協議している。
一方で、UAEは制裁順守を確約するが、他方で、合法的な取引も沢山ある。
国際的約束と合法的取引との適切なバランスを維持することが重要である。
UAEは外交的解決を100%支持する。軍事行使は既に不安定な地域をいっそう不安定にする。
UAEはオバマ大統領の制裁と関与と言う二重アプローチを支持する。

 このほかデボラ・グイド駐トルコ・米大使館報道官は、2010年8月20日、対イラン制裁とトルコ企業について、次のように述べている。

米財務省のチームが今週トルコを訪問し、米国及び国連の対イラン制裁について議論した。
米国とのビジネスを望むトルコ企業は、最近課せられた米国の法律を熟知する必要がある。

 尚、トルコ国内紙は、一定額を超えてイランのエネルギー部門に投資している全ての企業が米国のブラックリストに掲載されると報じている。

(8月23日、記)
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(幹事 畑中 美樹<はたなか・よしき>)