イランを追い込める一環の追加制裁措置として新たに21企業の社名を公表した米財務省
(2010年8月10日掲載)

 米財務省は2010年8月3日、イラン政府の管理下にあるとするイランの企業21社の企業名を公表し関係各国に警戒を呼びかけたほか、テロ集団の支援で活用しているとするイラン革命防衛隊の4人の氏名及び関連企業社2機関の名前を公表し資産を凍結することを明らかにした。イラン革命防衛隊の高官では、フセイン・ムサビ氏、フシャング・アラダード氏、ハサン・モルテザヴ氏、ムハンマド・レザ・ザヘディ氏が、関連企業ではレバノン復興イラン委員会及びヒサム・ホシュネヴィス役員、イラン・ホメネイ救援委員会レバノン支部及びアル・ズライク役員とシリア在住のラジ・ムサビ氏がそれぞれ対象として名前を公表された。

 イランが企業名を公表した21社は日本、ドイツ、イタリア、ベラルーシ、ルクセンブルク、イランに本拠を置いて活動している。業種的には、保険、投資、銀行、鉱業、エンジニアリングに及んでいる。社名の公表された日本企業は「アスコテック・ジャパンである。港区にある同社は、イラン鉱工業省傘下企業が出資したとされるアスコテック・ホールディング(独)の子会社である。イラン企業などと機械部品や鉄鋼、原料などの取引がある。

 ところで日本政府は、2010年8月3日、国連安全保障理事会による対イラン経済制裁を閣議で了承した。今後は我が国独自の制裁の実施の動向が注目される。2009年の場合、日本とイランの貿易額は109億6890万ドル(9400億円強)だが、このうち96%を原油輸入の占める輸入が93億1890万ドル(8000億円強)と太宗を占めている。日本にとってイランは重要な原油輸入相手であると同時に、将来的にはプラント類等の有望な市場でもあるだけに、同盟国である米国との協調とエネルギー・経済面での我が国の実益とを如何に両立させるかが焦点となりそうだ。

 同様の悩みを抱えているのがお隣の韓国である。韓国政府は2010年8月5日、企画財政省を軸として関係各省が独自の対イラン制裁を実施した場合の影響などを検討した模様だ。既に米政府は韓国に対して、イラン・メラト銀行のソウル支店の資産凍結を含む制裁強化策を求めている。2009年の韓国とイランの貿易額は、日本・イランの貿易額より約1割少ない97億ドルだが、韓国の対イラン輸出が40億ドルと日本の対イラン輸出の2倍強となっているのが大きな特徴である。韓国貿易投資振興公社(KOTRA)は、韓国企業は経済制裁の影響で過去1ヶ月だけで約3億ドルもの貿易被害を出したと推計している。韓国の対外経済政策研究院(KIEP)は、2010年8月4日、「米国の包括的イラン制裁法案の内容と示唆」と題する報告書を作成し、米国の対イラン制裁による金融取引の一時的中断などで、石油化学やプラント、建設部門などが打撃を被ると分析している。

 他方、独自路線を歩みそうなのが中国とロシアである。イランのマスード・ミルカゼム石油相は、2010年8月4日から中国を訪問し、エネルギー部門への新規投資の打診などを行っている。具体的には、製油所建設を含む総額150億ドル規模の投資に関する協議と見られている。中国外務省は国際社会からの批判を意識してか、正常なビジネス取引であり国連安保理決議に反するものではないと説明している。因みに、イランのホセイン・ノクレカル・シラジ副石油相は2010年7月21日、中国が同国と石油化学、製油所、石油・ガスパイプライン事業などで100億ドルの契約を締結していると述べていた。

 ロシアの場合、米欧などの制裁で供給者の少なくなったイラン向けガソリン輸出などを狙っているようだ。2010年7月14日には、モスクワにおいてマスード・ミルカゼミ・イラン石油相とセルゲイ・シマトコ・エネルギー相が、エネルギー協力の道筋を示した道程表に調印し、ロシアとしてはイランとの関係で飴と鞭を巧みに使い分けて行く姿勢を鮮明にしている。現在、ガスプロム、ロスネフチ、タトネフチのロシア・エネルギー企業の大手3社がイラン向けガソリン供給について実務者レベルで協議している模様である。ロシアとしては地の利を活かして、トルクメニスタン経由の鉄道輸送ルートとカスピ海タンカー輸送ルートの二つを想定している。

(8月6日、記)
<関連情報>

高性能対空ミサイル・システム「S300」4基をベラルーシほかから入手したと伝えられるイラン【2010/8/6】

地方演説に向ったアハマディネジャド・イラン大統領の車列近くで発生した謎の爆破事件【2010/8/6】

対イラン制裁の履行を確実なものとするために各国を説得に回る米国と無条件交渉に言及し始めたイラン【2010/8/3】

外相理事会で追加制裁措置の発動を決めた欧州連合(EU)と前提条件なしでの交渉を表明したイラン【2010/7/30】

謎に包まれる失踪中とされてきたイラン人科学者の米国からの突然の帰国【2010/7/20】

パキスタン、アフガニスタンと国境を接する南東部シスタン・バルチスタン州で爆破テロの発生したイラン【2010/7/20】

イランは核兵器製造能力の獲得に近づいていると発言し同国に対話を促したロシアのメドベージェフ大統領【2010/7/16】

イラン向けの石油製品を輸送する船舶の保険・再保険の引き受け拒否の方針を決めた英ロイズ保健組合【2010/7/13】

バザール商人の閉店措置という強い反発を受けて税率の引き上げを撤回したイラン政府【2010/7/9】

3条件を受ければ9月1日以降での6カ国との核開発交渉に応ずることを明らかにしたイラン【2010/7/9】

イラン包括制裁法案に署名したオバマ米大統領とウラン濃縮20%の停止を示唆する発言を行ったイラン国会国家安全保障・外交委員長【2010/7/6】

UAEが国連追加制裁対象企業41社の口座凍結を決め欧州石油企業2社がイラン取引から撤退するなか、イラン核専門家との核燃料交換の議論を呼びかけた露仏米【2010/7/2】

対イラン追加制裁を発表した米財務省・欧州連合(EU)と新制裁案を承認した米上下両院【2010/6/29】

(幹事 畑中 美樹<はたなか よしき>)