第2のウラン濃縮施設の発覚で新たな展開の予想されるイランの核開発を巡る問題
(2009年9月29日掲載)

 イランが秘密裏に第2のウラン濃縮施設を建設していた問題は、今後、同国の核開発を巡る国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議に大きく影響することになろう。とりわけ、2009年10月1日からスイスのジュネーブで開催予定の6カ国とイランの協議では、この問題が大きく取り上げられることは必至なだけにイランの対応が注目される。

 イランはこれまで同様、時間稼ぎを図りながら、6カ国内の意見の相違点を見極めつつ分断を目指す戦術を取るものと予想される。しかし、長期的な課題であるとはいえ国連安保理で核廃絶・核不拡散を目指す動きが確認されるなか、イランが少なくとも数年前からウラン濃縮施設の建設に当たってきたことが発覚した点などを考えれば、同国を取り巻く情勢はこれまでになく厳しさを増している。イランが単なる時間稼ぎでしのごうとするならば、厳格な新制裁の発動という事態も否定できなくなっていよう。

 以下では、主として2009年9月10以降のイランの核開発問題を巡る問題について、9月24日~26日の動向とそれ以前の動きに分けて整理してみた。


<9月24日~26日>
月日 イ  ラ  ン 米欧露中など
9月
24日
アハマディネジャド大統領(ワシントン・ポスト紙とのインタビュー)「核開発の懸念解消へ米国等はイラン核専門家と接触し能力を見て欲しい」「米国から医療目的で濃縮ウランを購入したい」
米英仏が国際原子力機関(IAEA)に、新施設に関する詳細な証拠を提出
イランの反体制組織「国民抵抗評議会」(パリでの記者会見で)「テヘラン周辺に未公開の核関連施設が2箇所ある」「一つは、テヘラン東部の研究指令センターで、今一つは、テヘラン東方30kmのサンジャリアン村の起爆システム製造施設である」「前者では、爆発の衝撃を計測するコンピューターシュミレーションが行われている」「両施設は国防省の傘下に置かれている」
25日
アハマディネジャド大統領(NYでの記者会見で)「新施設の稼動まで18ヶ月以上かかる」「新施設を秘密にしておらず、IAEAの規則通りに申告しており合法的である」「IAEAの査察を受ける用意がある」
オバマ大統領(ピッツバーグでブラウン英首相、サルコジ仏大統領と共に発出した緊急声明で)「イランが同国中部で第2のウラン濃縮施設を秘密裏に建設していたことが判明した」「核不拡散体制への挑戦である」「新施設の規模や構造は平和目的のための計画と矛盾する」「イランは全諸国が守るべきルールを破っている」「イランはIAEAの査察を受け入れる必要がある」
ブラウン英首相(同上の緊急声明発表に同席し)「イランは虚偽を重ねている」「イラン核開発は世界が直面する喫緊の課題である」「イランは軍事的野心を放棄する必要がある」
サルコジ仏大統領(同上の緊急声明発表に同席し)「12月までにIAEAによる厳格な査察を受け入れねば、さらなる制裁を課すべきである」
国際原子力機関(IAEA)「イランが9月21日、エル・バラダイ事務局長宛の書簡で、新施設を建設中である」「イランは新施設では低濃縮ウランの製造を行うと説明している」「ウランの濃縮度は5度までである」「近い将来、新施設の情報をIAEAに報告する」と伝えてきた。
オバマ大統領(記者会見で)「中露もイランにIAEA査察に協力するよう求めた」「国際社会は前例のないほど一致している」「外交的解決を望むが、あらゆり選択肢を排除しない」「イランは、核兵器の取得の放棄か、国際社会との対立かを選択する必要がある」
米政府高官「新施設の完成には少なくとも数ヶ月はかかる」「新設には遠心分離機約3000基の設置が可能」「新施設は平和利用向けの低濃縮ウラン製造施設としては小さ過ぎる」「新施設は年間1~2個分の兵器級ウラン製造には適度な大きさであろう」「米英仏情報機関は新施設を数年前から把握していた」「これに気づいたイランがIAEAに(新施設に関する)書簡を送った(9月21日)ので、米英仏は事実を公表することにした」
ゲーツ米国防長官(CNN・TVインタビューで)「軍事行動は時間稼ぎの効果しかない」「軍事攻撃は核開発を1~3年遅らせるのみである」「外交や経済制裁で核開発を断念するよう説得する余地は残されている」
バーマン米下院外交委員会委員長(声明発表)「新施設が発覚したので経済制裁強化の法整備を急ぐ」「対イラン石油製品生産法案を10月に最終審議したい」
メドベージェフ露大統領(ピッツバーグでの記者会見で)「新施設の発覚については事態を注視する必要があるものの、深刻に懸念すべき情報である」
チマコワ露大統領報道官(メドベージェフ露大統領の会見に先立ち)「イランの行動は我々を不安にせずにはおかない」
馬朝旭・中国外務省報道官((ピッツバーグでの記者会見で)「イラン核問題は我々も注視しているが、交渉を通じ解決すべきである」「イランはIAEAに協力せねばならない」
米シンクタンク・科学国際安全保障研究所。新施設周辺の衛星写真を公開し、施設に通じると見られるトンネルの入り口が確認できるとした。撮影時期は2009年1月及び8月。
26日
サレヒ副大統領兼原子力庁長官(国営テレビに)「新施設はテヘラン南方約100kmの地に所在する」「IAEAと査察に関する協議を行う意向である」
ムハンマド・ムハンマディ・ゴルパイェガニ/ハメネイ最高指導者顧問(国営ファルス通信に)「新施設はまもなく稼動するだろう」
オバマ大統領(ラジオ演説で)「イラン指導者は、責任を果たすか、孤立の道を選ぶかの時を迎えている」
リーベルマン・イスラエル外相(イスラエル放送に)「新施設の暴露はイランの核武装化の希望を明確にするものである」
クリントン国務長官。NYでGCC外相級会合でイラン核問題での協力を呼びかけた。
出所:各種報道より作成のもの。


<9月10日~23日>
月日 イ  ラ  ン 米欧露中など
9月
11日
ハメネイ最高指導者(金曜礼拝の演説で)「核であってもなくても、権利を手放せば衰退につながる」
クローリー米国務次官補(広報担当)(記者会見で)「イランの包括提案は同国も対話・交渉の用意のあることを示している」「早急にイランと協議し意思を確認したい」
ソラナEU共通外交・安全保障上級代表(声明を発表)「6カ国とイランによる協議再開を呼びかける」「開催時期は出来る限り早くすべきである」
12日   
イスラエルのダン・メリドール副首相兼情報相(ロイター通信とのインタビューで)「イランの核の脅威に直ちに行動を起こさねばならない」「時間を浪費してはいけない」「行動とは軍事行動のみを意味するものではない」
17日
アハマディネジャド大統領(NBC・TVインタビューで)「西側の批判鎮静化のために核開発計画を放棄はしない」「イランは核兵器を必要としない」
ハメネイ最高指導者(国営イラン通信)「米国のMDシステム配備計画の中止は反イラン的政策である」「イランの30年の歴史が示すように、イランは平等・友愛精神で近隣イスラム諸国・世界との共存を望んでいる」「イラン核開発疑惑は米欧のでっち上げである」
オバマ大統領(東欧首脳への説明で声明を発出し)「ミサイル防衛システム(以下、MDとする)の焦点はイランであってロシアではない」「東欧でのMD計画を中止する」「MDでは新計画を採用する」「チェコ、ポーランドとの緊密関係は維持する」
ゲーツ米国防長官(東欧首脳への説明で)「イランの中距離ミサイルはそれほど脅威ではないので、中距離及び短距離ミサイル防衛に力点を移行させる」
18日
アハマディネジャド大統領(テヘラン大学での演説で)「ホロコーストはシオニスト政権(イスラエル)創設の口実だった」
クリントン米国務長官(ワシントン市内での講演で)「イランは長年、国際社会の懸念への対応を拒否してきた」「イランは今こそ核問題で決断せねばならない」「我々は真剣だ」
ライス米国連大使(記者会見で)「アハマディネジャド大統領のホロコースト否定発言は、憎むべきコメントである」
ギブス米大統領報道官(記者会見で)「ホロコーストの否定には根拠がない」「そうした虚偽の宣伝はイランを一層国際的に孤立させる」
20日
ハメネイ最高指導者(国営TVでの演説で)「イランは核兵器を基本的に拒否し、製造・使用を禁止している」「米欧の非難が虚偽であるのは彼ら自身が一番知っている」
  
21日
アハマディネジャド大統領(国営イラン通信)「(ホロコースト否定発言への欧米からの批判について)「世界の殺人者の激怒は我々には名誉なことである」
(テヘラン市内で記者団の質問に)「悪意を持つ人々の怒りは嬉しいことである」
アハマディネジャド大統領(イラン国営プレスTV)、外貨準備を米ドルからユーロに切り替えることを命じたと報じた。
メドベージェフ露大統領(CNN・TVインタビューで)「8月のペレス・イスラエル大統領との会談時に、イランを攻撃することはないとの保証を得た」
アシュケナジ・イスラエル参謀総長(CNN・TVインタビュー)「イランに対しては全ての選択肢がある」
(イスラエル軍ラジオ・インタビューで)「我々はいかなる準備も用意している」
22日
アハマディネジャド大統領(テヘランでの軍事パレード時の演説で)「イランに引き金をひく者がいれば、その前に手を切り落とす」
  
23日
アハマディネジャド大統領(国連総会での一般討論演説で)「パレスチナ独立に向けた国民投票を実施すべきである」
メドベージェフ露大統領(NYでのオバマ大統領との会談後、記者団に)「制裁が生産的な結果になることは少ないが、場合によっては不可避である」「選択の問題である」
FT紙が、イランは石油製品の輸入の3分の1を第三国を経由で中国国営企業に依存していると報じた。
国連安保理常任理事国5カ国とドイツが、国連本部で、イラン核開発問題に関する閣僚級会合を開催の上、懸念を共有しイランに真剣な対応を求めるとの趣旨の声明を発表した。
出所:各種報道より作成のもの。

(9月27日、記)
<関連情報>

10月1日に設定された「イラン」と「国連安保理5カ国+ドイツ」との核開発を巡る協議【9/18】

アハマディネジャド・イラン大統領に批判に耳を傾けるよう指示したハメネイ最高指導者ほか【9/11】

アハマディネジャド大統領の提案した21人のうち18人を閣僚として承認したイラン国会【9/8】

イランの核開発問題を協議した米英仏等の6カ国高官と新たな協議の用意があると表明したイランのジャリリ交渉責任者【9/4】

イランの濃縮ウランの製造ペースが落ちている点を明らかにした理事国配布の国際原子力機関(IAEA)の査察活動報告書【9/1】

バハマ船籍の貨物船からイラン向けの北朝鮮製武器類を押収したアラブ首長国連邦(UAE)【9/1】

(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)