![]() |
||
|
||
| (2009年10月30日掲載) |
||
イスラム女性のブルカ着用の禁止を巡って議論が沸騰しているフランスだが、今度は政府がイスラム諸国から投資を呼び込みパリをイスラム金融のヨーロッパの拠点にしようと動き始めた(AFP 2009年9月27日)。しかし、政府のこの方針は、金持ちの利益を優遇するためにフランスの栄えある世俗主義を根底からひっくりかえすものだとして野党の政治家から怒りが湧き起こっている。 フランス議会は、今般、イスラム金融における資金調達手段の一つであるスクーク債の発行を認める法案を承認した、これを受けてカタール・イスラミック銀行がイスラム金融を専門とする銀行ではフランスで初めてとなる支店開設の申請をした。フランスは、マイノリティー人口ではヨーロッパ最大の500万近いイスラム人口を抱えるが、ことイスラム金融については、ロンドンが先行した。ロンドンではイスラム金融に特化した銀行5行が営業し、シャリア法に準拠した金融商品を扱い大口投資家の需要に答えている。フランスはロンドンの座を奪おうと目論んでいるようだ。 フランス社会党第一書記のアンリ・エマニュエリ氏は、「金持ちのイスラム教徒がやってくることには歓迎だが、貧乏人ならば、飛行機に乗せて送り返す。いくら何でもひどすぎる。」(同上)と語っている。社会党は法案否決に失敗したものの、法案の合法性について憲法裁判所に判断を求める構えである。エマニュエリ氏は、「シャリア法(人の道の意)の原則を認めることは、コーランの倫理観をフランスの法律に導入することだ。これは断じて認められない。」(同上)と主張する。 議論の焦点は、フランス市場をスーク債に開放するかどうかである。シャリア法の基では、金利を課すことは禁止されており、イスラム教の目的に適った事業で資金運用をしなければならない。従ってアルコール、ギャンブル、タバコを扱う企業への投資は厳禁である。スーク債は資産を裏付けとする債券で金利は支払われないが、投資家は債券の裏付けとなっている資産から生じる利益の一部を相当するクーポンで受け取る。エコノミストは、2008年の金融危機を招いたハイ・リスクのデリバティブよりも安全だとしてイスラム金融による資金調達がフランスの回復し始めた経済に活を与えるものとして総じて好意的である。 昨年(=2008年)、イスラム金融の導入について政府向けの報告書をまとめたパリ第9大学のエリエ・ジュイニ教授は、税法と銀行法の改定によって、イスラム金融から1,200億ユーロの資金を呼び込むことができると見積もっている。同教授は、「湾岸諸国と東南アジア諸国には巨額の手持ち資金がる。これらの国はいつでもどこにでも投資する用意があるが、倫理上、投資の選択肢に制約がある。」(同上)と説明し、「フランスがこの資金を国内経済で活用したいならば、これらの投資家がイスラム金融のルールに従った投資が出来るような提案をしなければならない。」(同上)と述べ、「イスラム金融はイスラム法の倫理の原則に基づくものだが、フランスの法律及び市民社会の枠組みを逸脱してはいない。」(同上)と主張している。 フランス中央銀行のクリスチアン・ノワイエ総裁は、2009年9月29日、「イスラム金融の投資家に対しフランスは機会を提供する」(2009年9月29日付けブルームバーグ)と述べた。スクーク債発行の解禁の方針は固まったようである。しかし、フランスの極右政党、国民戦線は、イスラム金融の導入を、イスラムの移民による「地域社会の根底を揺るがす危機」と非難を強めている。 フランスでは、折しも国会の特別委員会がイスラム教徒の女性のベール着用禁止法案の是非について審議している最中でもあり、イスラム移民問題をめぐる論議を再燃させることになりそうだ。 |
||
| (10月28日、記) |
||
| <関連情報> ●サウジアラビアでの銀行業務部門を開始した野村ホールディングス株式会社【10/2】 ●金融商品と同時に実物資産に目を向け始めた世界の政府系ファンド(SWF)【9/18】 ●オーストリアのベンドルフ・グループと共同で投資会社を設立したアラブ首長国連邦の投資会社アーバル・インベストメンツ【8/25】 ●サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の訪問で対米投資の継続や米ドル連動性の維持を求めたガイトナー米財務長官【7/28】 |
||
| (中東問題研究家 江添 久義<えそい・ひさよし>) |