ドバイ・ワールドとナキールの債務返済を2010年5月30日まで猶予するよう要請する声明を発表したドバイ財務庁
(2009年11月27日掲載)

 ドバイ財務庁は、イスラム教の犠牲祭「イード・アル・アドハ(Eid al-Adha)」の始まる直前の2009年11月25日、ドバイ・ワールドとナキールの債務返済を2010年5月30日まで猶予するよう要請する声明を突然発表した。因みに、ドバイ政府機関及びドバイ政府系企業の多くでは、「イード・アル・アドハ(Eid al-Adha)」後に建国記念日があり、さらに週末の休日も入るため、結局業務の再開は2009年12月6日となる見込みである。尚、ドバイ財務庁の声明の要点は以下の通りである。

第一歩として、ドバイ・ワールドは、ドバイ・ワールド及びナキールへの全融資者に対して、債務の現状停止と少なくとも2010年5月30日までの返済の猶予を要請したい。
ドバイ・ワールドのリスケジュールの第二歩として、ドバイ政府はドバイ・ワールド・グループの最高リストラクチャーリング責任者(CRO)の任命を発表した。CROは金融顧問企業であるデロイテのアイダン・ビルケット/マネージング・パートナー(企業金融部門)である。
ドバイ政府は、ドバイ・ワールドのリストラクチャーリングを直ちに進めるようドバイ金融支援基金に委任した。

 尚、この声明の発出に際しドバイ財務庁の高官は、次のような補足発言を行っている。

債務リストラクチャーリングの主たる目的は、ドバイ・ワールドの継続性を確かなものとし、同企業グループの全債務を対象とする。
債務リストラクチャーリングが実際に進行するには、多少の時間が必要となろう。
ドバイ・ワールドは2010年5月30日の返済期日の延期を要請する必要が出てくるかもしれない。
最高リストラクチャーリング責任者(CRO)は、ドバイ・ワールドの役員経営チームと共に債務リストラクチャーリングの過程を監視し、ドバイ・ワールドの経営の継続を確かなものとする。

 この衝撃的な声明を発表する僅か2時間前には、同じドバイ財務庁がアブダビ政府系の2銀行を引き受け先として50億ドル(約4500億円)の政府債を発行する旨、発表したばかりであった。因みに、この債券の発行は、ドバイ政府が政府系企業の資金繰りを図るために明らかにしていた総額200億ドル(約1兆8000億円)の政府債発行計画の一部を成している。

 今回のドバイ発行債券を引き受けたのは、何れもアブダビに本店を置きアブダビ政府の強い影響力下にあるナショナル・バンク・オブ・アブダビとイスラム系のアル・ヒラル銀行の2行である。アル・ヒラル銀行のサリー・アラル副頭取(企業・投資銀行グループ担当)は「我が行はUAEが一つの国家と考える」「ドバイのヴィジョン2020年とアブダビのヴィジョン2030年はUAE全体のヴィジョンの一部を形成している」「我が行は100%政府所有の銀行であり、我が行の存在はそうした目的への触媒役である」(エミレーツ・ビジネス紙 2009年11月26日)と述べ、今回の債券引き受けがアブダビ政府の意向を反映していることを示唆した。尚、債券引き受けの調印式には、アブドゥルルラフマン・アル・サーレハ/ドバイ財務庁局長、ナーセル・アフマド・ハリーファ・アル・スウェイディ/ナショナル・バンク・オブ・アブダビ会長、アフマド・アティーク・アル・マズルーイ/アル・ヒラル銀行会長が出席した。

 ナキールは2009年8月、ドバイの総債務800億ドルのうち、ドバイ・ワールドの債務が2008年末で590億ドルである一方、総資産が996億ドルであり、さらに総売上額が142億ドルであることを明らかにしていた。また、ドバイ・ワールド・グループの資金事情に詳しい銀行マンは、2009年10月、ドバイ・ワールドの債務のうち約180億ドルが債務を返済するのに十分なキャッシュフローを持つDPワールドなどの企業のものであり、真に問題となりそうな債務額は220億ドルであることを明らかにしていた。因みに、ナキールは、2009年12月14日にイスラム債35億ドルの償還期限を迎えるほか、2010年5月13日にも36億ディルハム(9.8億ドル)の債務返済期日を迎える予定であった。また、リミットレスも2010年3月31日に12億ドルのイスラム債の償還期限を迎える。

 格付け機関のスタンダード&プアーズは、2009年10月、ドバイの政府系企業が今後3年間で期日を迎える債務は約500億ドルと発表したばかりであった。但し、これら債務の大半は2011年ないし2012年に返済期日を迎えるとしていた。その際、ドバイ政府系企業として挙げられていたのは、ドバイ国際金融センター・インベストメンツ、DPワールド、ジュベル・アリ・フリーゾーン、ドバイ多商品センター庁、エマール不動産、ドバイ・ホールディング商業オペレーションズ・グループである。

 今回のドバイ財務庁による突然の声明の発表について金融市場関係者は戸惑いを隠していない。例えば、ロンドンのピクティ・アセット・マネージメントのイマード・ムスタク中東エクイティファンド部長は「正確に何が起きたのかが明らかでない」「自主的な債務返済の先送りなのか、或いは強制的な債務返済の先送りなのかが明らかでない」「仮に強制的な債務の先送りならば、技術的デフォルトを意味する。彼らがこうした点を明らかにしなければ、市場は全て売りを求めるだろう」(ブルームバーグ通信 2009年11月26日)

(11月26日、記)
<関連情報>

ドバイ投資社(ICD)の役員の交代などを行ったシェイク・ムハンマド・ビン・ラシッド・アル・マクトゥームUAE副大統領・首相兼ドバイ首長【11/24】

さらなる成長を期待するには規則類の標準化が急務となる今後のイスラム金融【11/20】

エミレーツ航空がトップに躍り出た2009年10月のアラブ首長国連邦(UAE)におけるブランド力の調査【11/17】

経済の先行きに自信を持ち始めた湾岸協力会議(GCC)諸国の最高財務責任者(CFO):ドバイ発【11/17】

2009年第3四半期に入り主要デベロッパーや港湾操業企業の収益の改善するアラブ首長国連邦(UAE)【11/10】

(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)