![]() |
||
|
||
| (2009年11月4日掲載) |
||
スタンダード・チャータード・バンクは、2009年9月に発表した調査報告書「湾岸諸国のメタル需要」のなかで、今後GCC諸国ではインフラ整備プロジェクトが目白押しで総投資額は2013年までに2,050億ドルに達すると予測した。同時に、同報告書は2008年の世界金融危機以降続く世界的な信用収縮のために、GCC諸国ではプロジェクト推進のための資金調達が大きな課題になっていると指摘した。実際、中東は数年前までは銀行にとって世界最大のプロジェクト・ファイナンス市場であったものの、今では規模が縮小してしまっており、アナリストや銀行家も当面急速な回復は見込めないと見る。 GCC諸国のインフラ整備事業には、経済環境が悪化しても不動産開発のようにプロジェクトの先送り、凍結ができない事情がある。特に、発電と造水事業は、この地域の人口増による需給逼迫が明らかになっていることから高い優先順位が与えられている。2015年までに電力の需要は10%、脱塩水の需要は8%のそれぞれ増加が予測されている。スタンダード・チャータード・バンクの調査報告書も、GCC諸国では既存の設備の拡張・新設などのインフラの整備・開発に今後4年間だけで700億ドル近くの投資が必要になると見積もっている。 特に、サウジアラビアにおける必要投資額は突出している。第8次五ヵ年開発計画(2004年―2009年)で掲げたインフラ整備を次の第9次計画でも継承することから、病院、道路、鉄道、空港の建設工事だけで約1,050億ドルの投資が計画されている。実にサウジアラビアだけで、GCC全体の投資額の50%以上を占めている。調査を担当したアナリストのデイビッド・バークレー氏は「GCC諸国ではインフラ整備は政府主導で行っており、政府の財政支出拡大の要因になっている。例えば、ドバイでは、国家予算の40%を別枠で交通網の整備・拡張に割り当てている。サウジアラビアでは、政府は重要なインフラ・プロジェクトの多くを政府直轄もしくは政府の特殊法人で行っている」と説明している。 背景として指摘されるのが、民間主導プロジェクトにおける資金調達の困難さから各国政府が介入する事例の増加である。例えばアブダビのシュワイハット2の発電プロジェクトでは、総投資額32億ドルの内、11億ドルに関しては12行から成る銀行団からの借入れ合意を取りつけた。しかし、アブダビ水・電力庁は、商業ベースでの資金調達が難しくなった場合にはプロジェクトを国家事業化することも考慮すると言っている。サウジアラビアでは、橋梁建設プロジェクトにおいて政府が70億ドルの資金手当てを直接行った事例もある。2008年4月には、ラス・アル・ズールの発電プラント・プロジェクトが、民間企業ではなく政府所管の法人により実施されることが決められた。 その一方で、独自の資金調達に成功している事例が注目を集めている。2009年7月、サウジアラビアの独立系発電事業者アクワ電力(ACWA Power)社が成功したラービグ発電所プロジェクト向けの25億ドルの資金調達である。同社は、このうちの19億ドルを20年債の発行で賄った。2009年に入り期間10年超の資金を独自に確保したのは本プロジェクトが初めてであった。またUAEのドルフィン・エナジー社は、7.5億ドルの借入を債券発行で借換えることに成功している。カタールのスラファン液化天然ガス社の場合、22億3,000万ドルの債券発行に175億ドルの応札があったほどである。こうした成功例に倣って、プロジェクト・ファイナンスの手法として債券発行による市場からの直接資金調達が今後増えることが予想される。 |
||
| (10月31日、記) |
||
| <関連情報> ●いよいよ準備段階に入ったと伝えられるカタールの大規模鉄道敷設計画【10/9】 ●サウジアラビアの2010年の歳出は2009年に比べて約12%増となると見るナショナル・コマーシャル銀行(NCB):湾岸発【10/9】 ●先送り・中止となったサウジアラビアのプロジェクトは相対的に少なく約80件・200億ドルのみ【8/7】 ●GCC諸国で進行・計画中の2.1兆ドルのプロジェクトの60%超を主導する各国政府【7/28】 ●不況下でもインフラ整備等の建設予算を削減していないGCC諸国と建設部門への投資を奨励するエジプトの証券会社【7/21】 ●事業の効率化・サービスの改善・補助金削減の観点から進められるGCC諸国の電力部門など公共事業の民営化【7/17】 |
||
| (中東問題研究家 江添久義<えそい ひさよし>) |