飛行中の搭乗航空機が呼び戻され逮捕されたイラクのアブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相
(2009年6月2日掲載)

 イラクのアブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相は、2009年5月30日、ドバイに向かい飛行中の搭乗航空機がバグダッド国際空港に呼び戻され汚職の容疑で逮捕された。イラク議会の腐敗・高潔委員会のサバ・アル・サエディ委員長は逮捕に至る経緯について次のように説明した。


アブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相は、ドバイ行きの航空機に搭乗していた。
アブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相は司法の手を逃がれるためにUAEに向かおうとしていた。
司法当局とバグダッド国際空港の間で何回かの電話でのやり取りのあった後に、航空機はバグダッド空港に引き返し、前大臣は逮捕された。
前大臣には汚職の容疑で逮捕状が出されている。前大臣は貿易省の汚職・腐敗で責任を負うべき中心人物である。


 治安当局者や政府関係者によれば事態は次のように進展した。即ち、まずジュピター航空の運航するドバイ行きのPHW604便がバスラ市の上空を飛行している時にドラマは展開された。ドバイ行きの同便は午後1時にバグダッド国際空港を離陸したが、その直後にイラク議会の腐敗・高潔委員会の委員たちが警察官と共に空港に駆けつけた。離陸から約30分後、委員たちが当該便に連絡し引き返すよう命じた。機長は乗客約250人に、目的地のドバイ空港が混雑しているためバグダッド空港に引き返す旨の機内放送を行った。バグダッド空港到着後、搭乗機は誰も近づけないよう治安部隊及びマリキ事務所の高官に取り囲まれた。機内に私服の治安要員が入ってきて丁重にアブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相夫妻を機外に連れ出した。夫妻は治安要員と共にVIPに行き、前貿易相は逮捕された。


 但し、アブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相の逮捕から数時間後、議会内の擁護派の議員たちは逮捕状を出した当局者に大臣を逮捕する権限はなかったはずと述べ、釈放される可能性もあるとしている。また、アブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相と同じダワ党所属のアブドゥル・ハジ・アル・ハサニ議員は、「数分前に前大臣と電話で話したが、前大臣は夫人が昨晩病気になったのでイラクには名医がいないのでUAEの医者に診断してもらおうとしていた」「アブドゥル・ファラフ・スダニ前貿易相は出かける土曜日の早朝、マリキ首相の事務所に電話している」「同事務所はUAEに向かう許可を与え、その時点で逮捕状は出ていなかった」(ニューヨーク・タイムズ紙 2009年5月30日)と述べ、マリキ首相の許可を取得しての出国であったと強調している。


 但し、マリキ首相と話したという政府高官は、「首相は前貿易相に捜査が完了するまでイラクを後に出来ないと伝えてあった」(同上)と全く別の説明をしている。さらに別の高官サミ・アル・アスカリ氏は「首相事務所は空港係官に当該機を引き返させるよう命じた」「大臣といえども一般国民同様、イラク法により裁かれる」(同上)と語り、問題は司法の場で解決されるとの姿勢を明らかにした。だがマリキ首相の政敵たちは、同首相が国民の批判を受ける形でここに来て急に汚職や不正の問題に取り組み始めたことについて次のような突き放した見方をしている。即ち、マリキ首相は自分が首相の座を維持する上で不要となった高官を追及しているに過ぎないと。


 イラクのマリキ首相は2009年5月25日、アブドゥル・ファラフ・スダニ貿易相の辞任を受け入れていた。また同相の辞任の知らせを聞いた議会腐敗・高潔委員会のサバ・サエディ委員長は、同日、良い知らせではあるがそれだけでは不十分と述べ、同相の海外渡航を禁止した上で貿易省における不正取引の実態の徹底調査を求めていた。イラク貿易省は食品類や自動車、建設資材を初めとする主要輸入品の輸入業務を監督する立場にある。また、同省は砂糖、米、牛乳、紅茶、食料油、石鹸といった多額の補助金のついた食品類等をイラク国民に配給する計画事業も管理している。


 しかし、スダニ大臣時代には食品類の不足が頻発したほか、配給された品目が消費期限切れであることも少なくなく国民の怒りを買っていた。今回の逮捕容疑も、消費期限切れの商品の輸入や不正契約、親類の不正雇用などと見られている。因みに、アブドゥル・ファラフ・スダニ貿易相の二人の兄弟は、消費輸入に関係して数百万ドルのキックバックを得ていたと噂されていた。尚、イラク政府の公共高潔委員会は、2009年5月27日、高官51人を含む政府職員997人に逮捕状を出している。


(5月31日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)