キルクーク県の帰属を巡り譲歩の姿勢を見せないバルザーニ・クルド自治政府と行方の注目されるクルド自治政府議会及び大統領選挙
(2009年7月24日掲載)

 イラクのクルド自治政府のマスード・バルザーニ大統領は、2009年7月19日、6日後に迫ったクルド自治政府議会及び大統領選挙の集会で演説し、キルクーク州の帰属問題で妥協することはないことを明らかにした。マスード・バルザーニ大統領は同日の演説で「我々はイラク憲法140条の適用を約束しており、クルド州の帰属やクルド人の権利の問題で妥協することは全くない」(AFP通信 2009年7月23日)と語った。

 さらに、同大統領は「合法的権利や憲法上の権利を主張するのは過激主義でも人種差別主義でもなんでもない」「むしろ、合意や憲法の条項を破る者こそ過激主義であり人種差別主義である」(同上)と続け、キルクーク州の問題では要求を全うする姿勢を滲ませた。イラク憲法140条は、キルクーク州の帰属を巡る住民投票の実施を規定しているが、同州に居住するアラブ人やトルクメン人共同体は投票による決定に強く反対している。

 ところで7月25日に行われるクルド自治政府の議会及び大統領選挙戦では新勢力が登場し注目を集めている。これまでイラク内のクルド人の政治といえば、クルド民主党(KDP)とクルド愛国党(PUK)の二大政党による争いと相場は決まっていた。だが今回の選挙では、第三の勢力として変革を意味するゴラン(Gorann)という組織が、二政党下での腐敗や身内ひいきを批判した運動を展開し一定の支持を得ている。

 ゴランを指揮するのはナウシルワン・ムスタファ(65歳)氏である。同氏は、かつてはクルド愛国党(PUK)でタラバーニ現イラク大統領に次ぐNo.2の座に就いていた。しかし、フセイン元政権の崩壊を契機にクルド民主党(KDP)とクルド愛国党(PUK)が野合して以降、腐敗・身内主義が拡大したことから嫌気が差して2年前に袂を分かった人物である。因みに、ナウシルワン・ムスタファ氏の分派行動にはクルド愛国党(PUK)の支持者数千人が従った。

 ゴラン(Gorann)は選挙戦で、①二大政党は中央政界でクルド人の権益を十分に擁護していない、②現にキルクーク州の帰属問題も未定のままであり、中央政府は住民投票を拒んでいる、などと主張し共感を得ているようだ。実際、クルド地区内では、濃紺の中にオレンジ色のキャンドルが浮かぶゴラン(Gorann)のロゴ・マークをつけたバスやタクシー、或いはTシャツ、野球帽が溢れている。

 もっとも有力者による後援や家系への忠誠心を基本とするクルド人社会であるだけに、選挙でどこまで新興勢力が食い込めるかは未知数である。だがゴラン(Gorann)もウシャ基金を活用し、同基金の持つ日刊紙やウェブサイト、衛星放送などで、「クルドにも多極化と説明責任と透明性の時代が到来した」「バグダッド(中央政府)で目標を達成するには、まずクルド地区内をしっかりとしたものにしなければならない」といった呼びかけを行っているだけに、選挙では共同リストで有権者に訴えることになったクルド民主党(KDP)とクルド愛国党(PUK)の立候補者も気をもんでいる。


(7月23日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)