アブダビ首長国による救済のあり方が焦点となったドバイ・ショックの今後の行方~救済を巡りアブダビとドバイの間で心理戦・神経戦が展開か
(2009年12月1日掲載)

 世界の金融市場を揺るがしたドバイ財務庁の声明発表から6日が経過した。周知のように、同声明は、ドバイ・ワールド及び傘下企業の債務返済を2010年5月30日まで先延ばしすることを求める内容であった。筆者は、その後のドバイ及びアブダビ政府高官などの発言から、救済を巡りアブダビとドバイの間で心理戦・神経戦が展開されているのではないかと推察している。

 筆者には、ドバイに対して救済案の見返りとして厳格な条件を付すアブダビと、自国(=ドバイ)の債務状況の悪化振りをいわば意図的に国際社会に見せることでアブダビが救済せざるを得ないような状況を創出し厳格な条件の緩和を狙うドバイとが、心理戦・神経戦を展開しているように思えてならないのである。勿論、これは、確たる証拠があっての話ではなく、単なる推察に過ぎない。両国がそれぞれの開発事業を通じて経済発展することを願う筆者としては、この見方が筆者の邪推に過ぎないことを願っている。以下では、過去数日間のドバイ信用不安を巡る動きを紹介することとしたい。

 アブダビ首長国の政府高官は、2009年11月28日、ロイター通信の電話取材に、次のように答え、まずはドバイ政府による債務に関する情報の開示が必要との見方を示した。

我々はドバイの約束事を見極め、ケース・バイ・ケースで接する。それは、アブダビ政府がドバイの全債務を引き受けることを意味しない。
ドバイの政府系企業の中には商業的なものもあれば、半政府的なものもある。アブダビは支援する時期や対象を選択し選別する。
物事が明確になるまで如何なる投資の決定も下すことは難しい。多くのことがドバイ政府により明らかにされねばならない。

 またUAE中央銀行の広報担当官は「(ドバイ・ショックが)如何なるマイナスの影響もUAE経済に及ぼしていないか、動向を極めて注意深く観察している」と述べ、事態を注視していることを明らかにした。そのUAE中央銀行は、2009年11月29日、万が一、巨額の資金が海外流出する事態に備えるために、UAE国内の金融システムに流動性を供給する緊急措置を発表した。具体的には、UAE中央銀行は、「3ヶ月物のUAE(首長国)銀行間取引金利(EIBOR)+ 50ベーシス・ポイント(bp)」で、銀行の当座勘定に関連した「特別追加流動性ファシリティー」を開始すると発表した。同時に、UAE中央銀行は、銀行システムは世界的な金融危機のあおりを受けた1年前よりも健全であるばかりでなく流動性も改善していると表明することで、国内金融機関に十分な流動性資金の存在することを改めて強調している。

 ドバイ財務庁のアブドゥルラフマン・アル・サーレハ長官は、2009年11月30日、ドバイ・メディア・インコーポレイテッド(DMI)とのインタビューで凡そ次のように語り、ドバイ政府はドバイ・ワールドの債務の保証はしないことを明らかにした。

ドバイ・ワールドは商業企業であり、同社の調達した資金は商業的条件に基づいていてドバイ政府によって保証されたことはない。
世界のメディアはドバイ政府のソブリン債務とドバイ・ワールドの商業債務を混同しつつある。両者は異なる存在である。
ソブリン債務にはソブリン保証がついている。商業債務は商業企業が市場で調達した借り入れのようなものである。貸しては自らの債権が如何なるソブリン保証もないことを認識している。
ドバイ・ワールド及びナキールなどの傘下企業による債務は、如何なるソブリン保証も付いておらず、今でも如何なる形にせよソブリン保証がつくものではない。
政府の所有するドバイ・ワールドは商業企業ではあるが、同社の債務問題は同社の経営陣が最善と考える方法で処理することを求められている。
ドバイ・ワールドもその一つである政府系企業(GREs)は、ドバイ金融支援基金(DFSF)の創設以来、支援を受けてきている。
ドバイ・ワールドをオーナーとして所有しているドバイ政府は、同社のリストラクチャー(事業再構築)を決定した。我々は、この決定に向けて専門家を任命し監督させることとした。
アイダン・ビケット最高事業再構築者(CEO)の考える事業再構築には、営業・経営面の構造のみならず財務運営面も含まれる。
ドバイ政府はドバイの全ソブリン債務を完璧に管理しており、その義務を完全に履行している。そこに問題は何らない。
ドバイ・ワールドの債務問題に関して世界は過剰反応を起こした。

 ドバイの信用不安の行方については、既に選別的な支援策を明らかにしているアブダビが、実際にどのような方法で、どの程度の救済を実施するかが決め手となろう。アブダビ政府の考えを知る手がかりとなりそうなのが、同国で発行されている新聞の本問題の取り上げ方である。ここでは、英語紙ナショナルとアラビア語の経済紙アル・ロヤ アル・イクティサーディアの取り上げ方を見てみよう。


<アブダビ発行の英語紙ナショナル>
ドバイ・ワールドによる債務の返済停止の要請は、一見、間違った方向への一歩に見える。
しかし、埃が消えてみれば、この驚くべき発表が実際、正しい方向への動きであることが理解されるであろう。
問題解決の第一歩は、問題のあることを認めることである。


<アブダビ発行のビジネス紙アル・ロヤ アル・イクティサーディア>
欧州市場はドバイからのニュースに過剰反応した。
各市場は湾岸、特にドバイからのニュースにとりわけネガティブに反応した。
他方、欧米の悪化する雇用統計については無視している。

 他方、当のドバイ政府が今回の発表についてどう考えているかを知る上では、同国で発行されている英語紙ガルフ・ニューズの次のような記事が参考となりそうだ。


<ドバイ発行の英語紙ガルフ・ニューズ>
発表はこれ以上透明にはできないほど透明であり、世界経済危機により直面する課題について率直に述べていた。
そこには如何なる秘密もなく、隠された課題もなく、見えないところでの取引もなく、発表されていない決定もなく、公開されていない合意もなかった。
資産は部分的にも売却されておらず、どの主要プロジェクトも放棄されていない。
悪意に満ちた意地の悪い噂は、全て過去に置き去ろう。


 尚、バンク・オブ・アメリカが2009年11月27日に明らかにした最新推計によれば、2009年末のUAEの総債務額は1840億ドルで、このうちアブダビの総債務額が900億ドル、ドバイの総債務額が880億ドル、多首長国の総債務額が60億である。また、ドバイの債務の約57%に当たる500億ドルが今後3年以内に返済の必要な債務額である。具体的に今後3年の債務返済額は、2010年が120億ドル、2011年が190億ドル、2012年が180億ドルである。

 さらに、ドバイの債務額のうちドバイ・ワールドの債務額は265億ドルで、その80%相当の約210億ドルが今後3年以内に返済の必要な債務額である。但し、ゴールドマン・サックスの推計では、このうちの78億ドルが2009年及び2010年の返済額で、68億ドルが2011年の返済額である。

 加えて、国際決済銀行(BIS)の融資統計によれば、2009年6月末時点での世界の銀行のUAEへの融資額は1231億ドルである。銀行の国別内訳では、1)英国:502億ドル、2)フランス:113億ドル、3)ドイツ及び米国:各106億ドル、5)日本:90億ドルなどとなっている。上記以外の欧州諸国の融資額も165億ドルに達している。従って、UAE向けの世界の銀行の融資額に占める欧州銀行の比率は約72%と突出している。

 また、同時点での国際的銀行の個別の融資額では、1)HSBC:159億ドル、2)スタンダード・チャータード銀行:78億ドル、3)バークレーズ:36億ドル、4)ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド:23億ドル、5)シティグループ:19億ドル、6)BNPパリバ:17億ドルなどとなっている。ドバイ・ワールド向けの邦銀の融資額は、三井住友金融グループが2億2500万ドル超、みずほ金融グループが約1億ドルといわれている。

(11月30日、記)
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(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)