改めて注目される200名以上の米下院議員が提出した対イラン積荷検査法案362号の行方
(2008年9月26日掲載)

 200名以上の議員が共同提案する対イラン積荷検査法案362号は2008年5月下旬に米下院議会に提出されたが、議会が閉会となる今秋まででの同法案の取り扱いが改めて注目されている。周知のように、同法案は、米大統領に対してイラン向け石油製品の封鎖やイランに出入りする全ての人物、車両、船舶、航空機、列車、積荷の厳格な検査を求めている。また米下院でも同法案と同じような内容の法案580号が50人の共同提案の形で提出されている。


 ワシントンのナショナル・イラン米国評議会のトゥリプタ・パルシ議長は「仮に米国が同法案を実施に移そうとすれば海上封鎖を伴うことになる」「国際法によれば海上封鎖は戦争行為である」「それ故、それはミサイルやその他の手段を使うことなく米国民が神経過敏となっている開戦につながる」「米国とイランは直接交渉しない限り紛争コースを進んでいる」と解説する。


 ここに来てイラン政府高官は、湾岸での軍事紛争の可能性を低めようと米国及びイスラエルに対して和解の姿勢を示唆しはじめているが、他方で、2008年9月16日には湾岸の防衛を革命防衛隊に委ねることを明らかにするなどその言動は一貫性を欠いたままである。因みに、同日には米国の過去5人の国務長官経験者が、次期米政権に対してイランとの対話の開始を促している。こうしたことから、この夏前に比べればイラン核開発を巡る戦争の可能性は低下したもののその可能性が全く消え去ったというわけではない。


 イラン国内からは、国民が対米協議を求めているとの興味深い世論調査の結果が伝えられた。同調査によれば、イラン国民の69%が対米協議を求めているのに対して反対は僅か21%に留まった。また同調査は、イラン国民が対米関係正常化を前提に幾つかの問題で対米譲歩すべきと考えていることを明らかにした。イラン国民が譲歩してもよいと見なしているのは、イラク国内の武装組織への支援の終結、イスラエルと独立パレスチナ国家の同時承認などである。


 また最近明らかにされたイラン国内の別の世論調査は、イラン政府が核兵器の開発を中止しIAEAによる完全な査察を認める取引を支持する用意があることを示している。それによれば、イラン国民は、イスラエルが核兵器の開発を容認されているのにNPTに加盟しているイランが核開発を認められないのはイスラム諸国に対する差別と感じていることを示している。さらにイラン国民は米国のインド、パキスタンの核開発に対する姿勢とイランの核開発に対する姿勢の違いにも不満を覚えている。彼らは、当初インド、パキスタンの核開発に強硬に反対していた米軍部が次第に容認するようになった事例や、米国がインドと例外的な原子力協定を結んだ事例を引き合いに出し、イランの核開発に対する米国の姿勢に不満を露にしている。


 加えて、イラン国民は米国がイランを核兵器の開発能力を持ちながら実際にはそれを行わない地域大国として認知することを求めている。イランは核開発問題が作り出した自国に対するマイナス・イメージも払拭したいと考えている。その証左がアハマディネジャド大統領による米国が望むならイラン国内に領事館を開設してもよいとの発言である。こうした表現は、イラン革命以来の約30年で初のことであった。


 尚、イランの核開発を巡る過去10日余りの主な動きは以下の通りであった。

月 日 内        容
9月17日 米財務省が対イラン単独制裁の強化を発表し、イランの軍需産業にかかわる6社を新たな制裁対象に指定した。具体的には、大統領令に基づき対象企業の在米資産の凍結や米国企業・個人との金融・商取引の禁止に踏み切る。米国の財務・司法・商務省などの関連省庁が連携を強化することで制裁措置の徹底を図る。

9月18日 イランのアハマディネジャド大統領がテヘランの大統領府で記者会見し、「(ニューヨークの)国連の場で両大統領候補と公開討論する用意がある」と述べ、米国との直接対話に強い意欲を示した。

9月19日 国連安全保障理事会の常任理事国5カ国に独を加えた6カ国が、米国務省で政治局長級会合を開催しイランに対する4本目の制裁決議を協議し、「包括的見返り案」と「制裁」の双方向で対処する方針を再確認した。尚、協議後、欧州高官は、ロシアは(イラン制裁)に乗り気ではないことを明らかにした。

9月22日 エルバラダイ事務局長は国際原子力機関(IAEA)の定例理事会での演説で、「(イランの核開発問題については)軍事目的という疑いの解消は進んでおらず深刻な懸念が残ったままである」と語った。

9月23日 アハマディネジャド・イラン大統領が国連総会で一般討論演説を行い、「(イランの核開発は)平和利用目的でありIAEAの査察に全面的に協力している透明性のあるものである」「迫害には抵抗して自国の権利を遵守する」と語り、核開発活動の継続を強調した。加えて、次期米大統領に対して、「米帝国は終焉を迎えつつあり次期指導者は国境の内側に干渉を制限すべきだ」と注文をつけた。

同 日 イラン反体制組織・国民抵抗評議会がウィーンで記者会見し、真偽のほどは不明だが、「テヘラン南東部ホジルの丘陵地帯にある秘密開発基地で、北朝鮮技術者が核弾頭の形状やミサイルの空力設計で協力している」「北朝鮮技術者の支援は約2年前から強化されており、最大数十人が滞在してきた」「秘密拠点には地下施設があり、核爆弾を起爆する高性能爆薬の爆発試験も行われている」などを明らかにした。

同 日 イランの核問題をめぐる6カ国外相会合が中止になったことが明らかになった。6カ国はニューヨークで9月25日に外相会合を開く予定をしていた。しかし、ロシア外務省報道官が「開く緊急性はない」との見解を示していた。米国務省のマコーマック報道官も同日、「外相会合はないと思う」と述べ開催されないことを認めている。ライス米国務長官が18日に行った「ロシアの国際的立場は1991年以来最悪である」といった内容の演説にロシアが強く反発したことが影響した模様だ。

9月24日 アハマディネジャド・イラン大統領がマザヘリ中央銀行総裁を解任し、後任にバフマニ同銀事務局長を指名した。8月のインフレ率が対前年比で27.6%に達したことから金利引き上げを求めたマザヘリ総裁などと、貧困層対策として低金利政策の維持に拘泥するアハマディネジャド大統領と政策対立が表面化していた。尚、後任に指名されたバフマニ新総裁もイラン中央銀行出身のバンカーで、金融引き締め論者といわれている。

同 日 イランのソルタニエIAEA大使がIAEA定例理事会で、「疑惑と言われる研究をしたことはなく、証拠もでっち上げられたものである」「平和目的の原子力エネルギーの利用は奪うことのできないイランの権利であるので中止するつもりはない」との反論を繰り返した。

出所:各種資料より作成のもの。

(9月25日、記)
<関連情報>

調査への非協力で改めてイランを批判した国際原子力機関(IAEA)【9/19】

イランの海運会社・関連会社を新たに金融制裁の対象に加えた米財務省【9/16】

空爆を懸念しイスラエルへのバンカーバスター爆弾ほかの売却を拒否していたブッシュ政権【9/16】

ロシア製ミサイルは未取得ながら完成間近となったロシア企業が建設するイラン・ブシェール原発【9/12】

NPT非加盟のインドの例外扱いを認めた「原子力供給国グループ」(NSG)【9/12】

(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)