「国際金融危機の影響の防止」や「株式市場の立て直し」「投資家の信頼感の回復」に向けて機敏に政策・声明を発表するGCC諸国

(2008年10月17日掲載)

 GCC諸国の株式市場は、国際金融危機の深刻化の波を受けるようにラマダン(断食)明けの最初の取引日となった10月5日(日)から8日(木)にかけて急速に値を下げた(詳細は、「湾岸緊急出張報告:依然下げ止まらないGCC株式市場」、2008年10月10日掲載、をご参照)。因みに、10月8日のGCC諸国の株式市場の指標は、図表1の通りであった。


  図表1 GCC諸国の株式市場の指標(10月8日)

市  場  名

108日指標

前日比()

ドバイ金融市場

3085.02

▲8.43

アブダビ証券市場

3176.94

▲6.4

タダウル全株指標(サウジアラビア)

6160.52

▲1.5

クウェイト株式市場

11472.00

▲1.41

バハレーン株式市場

2319.98

▲2.7

ドーハ証券市場(カタール)

7434.54

▲8.77

マスカット証券市場(オマーン)

6626.94

▲7.2

出所:ガルフ・ニューズ紙、2008年10月9日


 しかし、GCC諸国の株式市場は同日を底値として翌10月9日から総じて上昇に転じた。特に、GCC諸国が、「国際金融危機の影響の防止」や「株式市場の立て直し」「投資家の信頼感の回復」に向けて機敏に政策・声明を発表したことが奏効して、次に見るように10月13日(月)、14日(火)の指標は著しく回復した(注:本稿の執筆が10月15日(水)の午後のため、同日及び翌10月16日(木)の市況については別途ご紹介することとしたい)。


<10月13日(月)のGCC諸国の株式市場>

タダウル全株指標(サウジアラビア):サウジ当局が10月12日(日)に導入したレポ金利を0.5%引き下げ5.0%としたこと及び、商業銀行向けの預金準備率を13%から10%に引き下げたことが効果を表わし、引けは前日比9.9%上昇の6365.23ポイントとなった。

ドバイ金融市場:引けは前日比10.53%上昇の3343.56ポイントとなった。

アブダビ証券市場:引けは前日比6.92%上昇の3350.22ポイントとなった。UAEのこれら二つの市場が回復したのは、UAE政府が10月12日(日)、預貯金保証やUAE国内の銀行の保護、バイバック規制の緩和を打ち出した効果によるものである。

クウェイト株式市場:GCC諸国の中で唯一、前日比0.26%下落の11,826.70ポイントで引けた。同国は、2008年10月7日、クウェイト投資庁(KIA)が上場銘柄に投資する7投資信託への出資額を引き上げると発表し、翌10月8日には公定歩合を5.75%から4.5%に引き下げているが市場の反応は芳しくない。

ドーハ証券市場(カタール):引けは前日比8.45%上昇の7624.09ポイントとなった。

マスカット証券市場(オマーン):引けは前日比5.20%上昇の7121.32ポイントとなった。

 尚、以上のほか、バハレーン市場も前日比0.8%の上昇で引けた。


<10月14日(火)のGCC諸国の株式市場>

 GCC諸国の株式市場は、各国政府の新たな政策などの表明を受ける形で、クウェイトを除いて二日連続上昇して終わった。

タダウル全株指標(サウジアラビア):引けは前日比7.29%上昇の6828.96ポイントとなった。但し、先週の初めからでは依然23%の下落、また年初からでは38%の下落となっている。

ドバイ金融市場:引けは二日続けて10%を超える前日比10.76%上昇の3703.34ポイントとなった。本市場は先週1週間で26.7%もの下落幅となっていた。

アブダビ証券市場:引けは前日比7.50%上昇の3602.45ポイントとなった。UAEのこれら二つの市場が引き続き回復したのは、UAE政府が10月14日(火)、新たに190億ドルの資金注入を明らかにした効果によるものと推察される。

クウェイト株式市場:GCC諸国の中で唯一、前日比0.26%下落の11,795.70ポイントで引けた。これで、同国はその他のGCC諸国が二日連続で株価を戻すなか、二日連続で低下させた形となった。

ドーハ証券市場(カタール):引けは前日比10.00%上昇の8377.36ポイントとなった。カタール投資庁(QIA)が23億ドルから53億ドルを投入して国内銀行の株式を購入すると発表したことの効果によると思われる。

マスカット証券市場(オマーン):引けは前日比8.40%上昇の7717.43ポイントとなった。

 尚、以上のほか、バハレーン市場も前日比1.4%の上昇で引けた。GCC諸国の株式市場の時価総額は、この二日間で1000億ドル超も回復し8700億ドル超となった。GCC諸国の株式市場はそれ以前の1週間では時価総額を約2000億ドルも低下させていた。

 このように10月12日(日)の週に入りGCC諸国の株式市場は著しく回復しているが、その背景には次のような各国による一連の緊急政策・声明の導入・発表があった。


       図表2 GCC諸国の緊急政策・声明

月日(曜日) 国  名 政  策・声  明
10月07日(火) クウェイト クウェイト投資庁(KIA)が同国証券取引所の上場銘柄に投資する7つの投資信託への出資額の引き上げを発表すると共に、市場にさらに資金注入の用意があることを明らかにした。
10月08日(水) クウェイト 公定歩合を5.75%から4.5%に、またレポ金利を3.5%から2.5%に引き下げた。
アラブ首長国連邦(UAE) 翌日物レポ金利を2.0%から1.5%に引き下げたほか、緊急貸し出し金利も引き下げた
10月09日(木) バハレーン 政策金利を0.25%引き下げ1.75%とした。
アラブ首長国連邦(UAE) シェイク・ムハンマドUAE副大統領・首相兼ドバイ首長が「UAEの経済・銀行制度・金融市場は、同国の予見性・柔軟な法制が国内外の投資家や資本を保護しているので、強固且つ安全である」と語った。
10月12日(日) サウジアラビア レポ金利を0.5%引き下げ5.0%としたほか、商業銀行向けの預金準備率を13%から10%に引き下げた。
同上 ムハンマド・アル・ジャセル・サウジ通貨庁(SAMA)副総裁が「国内の銀行が必要とするのであれば1500億サウジ・リアル(400億ドル)を注入する用意がある」と語った。
アラブ首長国連邦(UAE) シェイク・ハリーファUAE大統領兼アブダビ首長が声明を発出し、「UAE経済は健全であり、銀行部門も効率的である」と表明した。
アラブ首長国連邦(UAE) UAE閣議が経済救済・銀行保護・銀行預金保証・必要時の流動性追加供給について決定した。同声明は「閣議は、本日、経済成長を持続し国民経済を守るための幾つかの予備的な国内手段・政策を採ることに合意した」「これらの政策の一環として、UAE政府は、①同国銀行が国際金融危機の危険に晒されないことを保証する、②同国銀行の預貯金を保証する、③国内の銀行間貸し出しを保証する、④必要時の追加的流動性の供給を保証する」としている。
アラブ首長国連邦(UAE) シェイク・ムハンマドUAE副大統領・首相兼ドバイ首長が「UAE政府は、国家及び国民の高度な利益を守るために、金融制度や銀行部門の保護に真剣である」と述べた。
アラブ首長国連邦(UAE) スルタン・ビン・ナーセル・アル・スウェイディUAE中央銀行総裁が声明を出し、「我が国及び我が国で活動中の外国銀行の財政基盤は強固である」と述べた。
クウェイト ムスタファ・アル・シャマリ財政相が国内紙アル・アンバに、「KIAは我が国株式市場を支える機関の一つである」「株式市場の続落を受けて政府は先週、KIA資金の注入を含む緊急政策を決定した」と語った。また、国内紙アル・カッバス氏は、消息筋の話として、「KIAは2.8億クウェイト・ディナール(KD)の注入に続いて、10億KDの追加注入の承認を得た」と報じた。
カタール カタール投資庁(QIA)が、同国に上場している国内銀行(カタール・ナショナル銀行、カタール・イスラミック銀行、ドーハ銀行、アハリ銀行など6行)の発行済み株式の10~20%相当を資金注入することが発表された。同日の引け値がベースとなるため、同日終了時点での6行の時価総額264億ドルを前提に計算すると、26.4億ドルから52.8億ドルが注入されることになる。
10月13日(月) アラブ首長国連邦(UAE) UAE閣議がバイバック規則の緩和案を承認した。これに伴い新たなバイバックの申請に対応するための特別委員会の設立が明らかにされた。尚、新たなバイバックに関する規定は以下の通り。①国内2紙での事前掲載、②告知から2週間後でのバイバック実施、③四半期決算の15日以前及び3日後以降でのバイバックの禁止。
アラブ首長国連邦(UAE) アブダビ証券取引所が、上場企業に第3四半期決算報告の早期提出を求めた。期限は11月15日。
10月14日(火) アラブ首長国連邦(UAE) シェイク・ムハンマドUAE副大統領・首相兼ドバイ首長が財政省に、700億ディルハム(DH、約190億ドル)の緊急追加資本注入を指示した。これにより、先に明らかにされた緊急融資スキームと合わせたUAEの資本注入額は約326億ドルとなる。
出所:GCC各紙ほかから作成のもの。

(10月15日、記)
<関連情報>

ドバイ不動産事業~完成年別居住用・事務所用戸数ほか【10/14】

対米投資に慎重な姿勢を取るGCC諸国のプライベイト・エクイティ【10/10】

湾岸緊急出張報告:依然下げ止まらないGCC株式市場【10/10】

米国発の金融危機の影響を受けはじめたGCC諸国のシンジケート・ローン市場【10/7】

国際金融危機による世界経済の大幅後退の防止には国際的協調行動が不可欠と説く国連総会出席のGCC諸国の首脳達【10/3】

(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)