その他地域に比べて国際金融危機の影響は相対的に小さいと予想されるアラブ諸国
(2008年12月5日掲載)

 国際金融危機が湾岸にも影響を及ぼしていることから、GCC諸国の経済の先行きへの不安も生まれている。特に、GCC諸国の株価の急落が続き不動産価格も下落をはじめたこと、ドバイが国際金融危機に対応するための「最高金融委員会」を創設しアッバール委員長がわざわざ講演でソブリン債務の実額を明らかにしたこと、或いはドバイの有力デベロッパーによる相次ぐ人員整理・事業見直しの発表や同じくドバイのイスラム系不動産融資会社の合併といった動きが相次いだため、GCC諸国の経済、とりわけドバイの経済は破綻するのではとの懸念が生まれている。


 こうしたGCC経済を不安視する流れの中で、今般、英国のコンサルタント会社が、「アラブ諸国はその他地域に比べて国際金融危機の影響は相対的に小さいと予想される」との見方を明らかにした。既に、2008年10月16日付けのカタールのガルフ・タイムズ紙は、GCC諸国の経済は世界のその他諸国と同様に減速を余儀なくされるが、蓄積した富が今回の国際金融危機による衝撃を最小化するとの各国のエコノミスト達の見方を紹介している。同紙は、例えば、「GCC諸国の経済が国際金融危機の影響を受けることは疑う余地もない」「しかし、GC諸国の受ける衝撃は先進国のそれよりも遥かに小さい」「主な衝撃は、石油需要の低下とその結果としての石油収入の減少である」「だが過去数年で蓄積した巨額の富はGCC諸国が世界経済同様の後退に陥るのを助けよう」とのサウジアラビアの経済調査ハウスのアブドゥルアジズ・アル・ダガエスタニ所長の分析を掲載した。


 また、同紙は、「GCC諸国は2008年度予算を1バレル当り50ドル以下の原油価格を前提に編成した」「GCC諸国は、原油価格の急落にも関わらず、2008年も財政黒字を計上するだろう」とのクウェイト投資ハウスのファイサル・ハッサン経済調査局長の予測も紹介している。さらに、メリル・リンチのジョン・ザイン会長は、2008年10月20日、ドバイ国際金融センター(DIFC)で記者団に対して、「石油収入が引き続きGCC諸国には防波堤となろう」「自分は中東地域の長期経済見通しを楽観している」と語り、GCC諸国の経済は底堅いとの見方を示している。


 英国のコンサルタント会社は、今般、凡そ次のような論理で、国際金融危機のアラブ諸国への影響はその他地域に比べて小さく、成長率は低下するものの依然一定の成長率は維持すると分析している。


石油収入と石油の富により活発な投資活動が続く。アラブ石油輸出国の2008年の経常収支の黒字は1320億ドルと2007年の770億ドルの2倍弱になると予測されるし、アラブ諸国の政府系ファンドは1兆5300億ドルの資産を保有している。しかも、外貨準備高及び個人資産の合計額はそれ(アラブ諸国の政府系ファンドの資産残高)を上回ろう。

中東という地域の視点から見れば、原油価格の下落による石油収入の減少はあっても累増資産が違いを生み出そう。アラブ諸国の海外直接投資を見ると、1985~95年の88億ドルが1995~2002年には170億ドルになり、2002~2007年には770億ドルへと増加した。しかも、2007年は1年間だけで140億ドルに達している。今や中東の資本形成の12%が海外直接投資によるものとなっている。同比率は途上国では7.8%止まりである。

中東の投資家は今では資産の25%を地場に投資している。この比率は2003年には15%に過ぎなかった。

2009~2013年の期間で計画されている石油・ガス・エネルギー事業は、国際金融危機の発生前には6500億ドルであったが、現在は5200億ドルに削減されている。それでも、この中の4000億ドルが実行に移されれば、月間80~100億ドルの投資が行われることになる。

米欧経済の悪化は投資の地域的多角化を促進するので、アラブ投資家にもアラブ投資が重要になってこよう。尚、(アラブの)投資家は、不動産、観光への投資から、食料、運輸、医療診断などの投資へと多角化しようとしている。

アラブ株式市場は歴史的な高水準であった2008年夏をピークに下落しているが、なかでもドバイ、エジプト、クウェイト、サウジアラビアの下げ幅が大きい。他方、アブダビ、バハレーン、クウェイト、カタール、オマーンの下げ幅は相対的に小さい。

2008年上半期の業績は好調であった企業も多くあるのに、悲観的な見方が前向きな業績を上回る結果となっている。

アラブ株式市場の下落は世界のその他株式市場ほど長引かないであろうし、影響の度合いも大きくないであろう。アラブ株式市場では金融機関株の占める比率が高いので、その下落が全体の株価を大きく引き下げている。因みに、スタンダード&プアーズの汎アラブ指標に占める金融機関の比率は56%と、中南米の16%、アフリカの36%と比べて極めて高い。

アラブ株式市場は、例えば、企業統治規則が未整備であるなど総じて発展途上にある。2007年から2008年にかけてもインサイダー及び株価操作疑惑により幾つかの調査が行われている。但し、アラブ株式市場が相対的に未成熟で経済に占める相対的な重要性が低いことは、国際金融危機の影響を和らげる結果につながっている。

世界需要の減少で石油収入が低下するので、アラブ産油国は緊縮政策を採り、その他アラブ諸国への投資も削減されよう。輸出の減少は中東全域を襲い、ブーム状態にあった石油化学・肥料産業は市況の悪化に直面しよう。観光の後退はモロッコ、エジプト、ドバイに影響を与え、出稼ぎ送金の減少は北アフリカ諸国に響こう。

不動産価格が異常なまでに高騰していたドバイの落ち込みが最も大きくなろう。ドバイの不動産担保融資は過去5年で4倍となり、ドバイの負債は約700億ドルに達した。貧しく債務過多のエジプトは、株式市場の悪化、石油・ガス収入の減少、スエズ運河収入の低下で大きな影響を受けよう。

アラブ株式市場は悪化したとはいえ、プラスの投資収益の見込みをなくしてしまったわけではない。中東は最終的には東アジア、欧州の成長及び国内・域内投資に乗ることになろう。アラブ諸国は政府系ファンドなどの巨額の資産も手伝って世界の景気後退を乗り切ろう。

(12月3日、記)
<関連情報>

全従業員の15%に当たる500人の解雇を明らかにしたドバイの政府系不動産開発大手のナキール【12/2】

11月に時価総額を1270億ドル減少させたGCC諸国の7株式市場と株価引き上げ向け国家投資ファンドを検討中のクウェイト【12/2】

全市場とも先週に比べて指標を下げた11月27日(木)終了のGCC諸国の7株式市場【12/2】

原油価格の下落や流動性の縮小などから2009年には上昇率の低下が見込まれるGCC諸国のインフレ【12/2】

講演でドバイのソブリン債務状況などを詳細に説明したムハンマド・アル・アッバール・ドバイ最高金融委員会兼エマール会長【11/28】

新たに5社(投資・不動産企業及び金融機関)の共同出資により不動産担保融資企業を設立したアブダビ【11/28】

国際金融危機による影響とソブリン債務問題に対応するために「最高金融委員会」を設置したドバイ首長国【11/25】

国際金融危機への対応で3回目の政策金利の引き下げを行ったサウジアラビアと不動産系金融企業2社の合併を発表したアラブ首長国連邦(UAE)【11/25】

GCC諸国は蓄積した富で今回の国際金融危機を乗り越えうると見るメリル・リンチ会長【10/28】

GCC諸国の蓄積した富が今回の国際金融危機に対する緩衝材となると見る各国のエコノミスト達【10/28】

(幹事 畑中美樹<はたなか・よしき>)